109人が本棚に入れています
本棚に追加
「俺にしかできないこと?」
取った手に口づけをすると、真剣だった表情が困惑にゆがむ。
「手紙を読んだあとで相手をしてくれるのだったな」
「まさか…こんな時に冗談はやめてください」
「心外だ、冗談ではない」
「子供じゃないですか、無理です」
「見た目だけだ。魔力量は減っていないから交換するのに問題はない」
ベルスタは苦しげに「…俺が、無理です」と言う。老ぼれ魔術師とは違い、私の羊飼いには常識がある。それも含めて好ましい。
「無理かどうか試してみようではないか」
◇◇◇
まるではじめてのような、触れるだけの口づけをする。これだけではベルスタの魔力を感じることはできない。
「屋根裏へ行かないのか」
私たちは長椅子に並んで座っていた。
「セルシウス、なんですよね?」
発言は無視され、なんのために必要なのか不明な確認が返ってきた。
「そうだ」
ベルスタは私の髪を指ですいて頭を撫でる。雑なようでやさしくて心地好い。
「でも本当はシュルッセル様だ」
何度同じことを言うのか。
「まあな、その名前は捨てたけどな」
最初のコメントを投稿しよう!