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「リストだな! 用意はしていたんだ」
ベルスタはこれ幸いとばかりに私の側を離れる。
「なになに、僕とどこかで会ったかな? 山小屋までどうやってきたの?」
「彼のことは気にしなくていい」と言う羊飼いの言葉もおもしろくなくて、「モル、私はセルシウスだ」と名乗っていた。
リストを手渡していたベルスタの動きが止まる。「え?」とモルは私と目の前の羊飼いを交互に見た。
「事情があって牧羊犬をしているのだ。いまのこの姿もかりそめだがな」
「え?」
「…そういうことらしい」
「びっくりだけど…へえ…そういうこともある、のかな…あ、ゆっくり話を聞いてる時間ないんだった、暗くなる前に下山しなきゃ。リストもらってくね」
首をつっこむのは得策ではないと判断したのか、モルは「じゃあ」と山小屋を出て行こうとする。さっさと帰ってくれと私が思ったのを察知したかのように、「泊まっていけば!」とベルスタが慌てて引きとめた。
「いまから帰ったら夜になるだろう、危険だ」
「平気だよ」
「だめだ、朝になってから帰ったほうがいい」
「明日も朝から仕事なんだ、間に合わないよ」
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