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魔術師に話し合いの仲介をさせるなど聞いたことがない。でも、話をまとめなければ山小屋へは帰れない。ベルスタだってきっと帰りを待っていてくれる、と思って投げ出したくなるのをこらえて話をつけてきたのに。
「ばかは私だな」
理解しがたいルーメン教授やマクスウェルと、認めたくはないが私も変わらない。ろくでもない魔術師の一人だ。生真面目な羊飼いは巻き込まれているにすぎない。
姉上の結界まで犬の姿なら走ってすぐだったが、だぼつく服はうっとうしく、十三歳の体格ではなかなか前にすすまなかった。途端に歩くのが面倒になって草地に寝転んだ。
目を閉じて風が渡っていく音を聞く。ここで一晩過ごそうかと考えているとかすかに狼の遠吠えが聞こえた気がした。近くではない。どのあたりだろうと耳をすます。
「おーい!」
風に混じってベルスタの声がする。幻聴を疑う前に、「セルシウスー! どこにいるんだー!」と今度ははっきりと聞こえた。がばりと起き上がって山小屋の方向を見ると遠くに人影がある。
声をあげることも、その場から動くこともできない。
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