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追いかけてきて、どうするというのだ。そのうち勘のいい羊飼いは私を見つけて駆け寄ってくる。
「座ってどうしたんです、怪我でも?」
「別に、疲れたから座っていただけだ」
「よかった、じきに日が暮れるのに子供一人では危ない」
ベルスタは私に手を差し伸べて、「俺も一緒に行きます」と言う。引き寄せられるように手を取って、ぐいと引っ張る。顔が近づく。
「わ!」
その声にはっとして、口づけをしようとしていたのをごまかすように、「子供ではない!」と怒鳴ってしまう。それ自体が子供のようだ。まったく、ベルスタのことになると調子が悪い。
「体は子供じゃないですか、それに魔術は使わないんですよね」
「私と一緒にいるのは嫌なのだろう」
「嫌なんかじゃ…」
ベルスタは頭をかいて私のとなりに座る。
「拒否できないから困るんですよ」
「意味がわからない。稀代の魔術師の魔力が得られるというのに、なにを困る?」
「…魔力の交換ってつまり、体を、重ねることじゃないですか」
「そうだな?」
「魔術師殿には理解できないかもしれませんが、俺にとっては、体を重ねることの方が意味が大きいんです。魔力が得られることは…なんというか、ついでに過ぎません」
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