109人が本棚に入れています
本棚に追加
私にとっても魔術の交換は言い訳でしかなかった。ベルスタも同じだというならなにも問題はない、はずがこの姿だ。まさか、元の姿に戻るまでできないということか。
「拒否できないと言ったな」
「はい?」
「お前が困る必要はない。この体で満足させてやれるかはわからないが尽力する」
こちらに向けられた顔がぎこちなく歪んでいく。
「…犬の姿に戻るのでは?」
「気が変わった、逃げるなら今だぞ」
「手をつかんでおいて…」
「子供の力だ。嫌ならふりはらえばいい」
我ながら卑怯な言い方だ。案の定、困り果てているベルスタに良心が痛む気がして、自分に良心が残っていたことに驚く。
なにがしたいんだ私は。「冗談だ」と言って掴んでいた手を離した。
「そう怯えるな。少し調子にのっただけだ。追いかけてきてくれてうれしかった…ありがとう」
立ち上がり、「アレッポの地帯に姉上の結界があるんだ。そこへ…」と話を切り替えていた口の端にベルスタのくちびるが触れる。
「アレッポ樹林ですね」
なにもなかったかのようにベルスタは歩きはじめる。
「…なんだその子供みたいな口づけは」
「子供にするんだからこんなものでしょう」
最初のコメントを投稿しよう!