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見習い期間中、俺は少しずつ二匹との信頼関係を築き、爺さんほどではないにしても意思の疎通がとれるようになった。だからこそ一人前と認められたはずなのに。
「セルシウスが働くかどうかは、お前さんしだいだ」
爺さんはそう予言して隠居した。
それは、「お前に仕えるつもりはない」と、ほかならぬセルシウスが宣言したことで現実となる。
信頼関係なんてこれっぽっちも築けていなかったのだ。
「お前に恩義はないからな。しかしオンスに頼まれた手前もあるし、片腕を無くした軍人くずれを憐れに思わなくもないから山小屋には居てやるよ」
と、セルシウスが、牧羊犬が、偉そうにのたまったのだ。爺さんが隠居した翌朝に。
そのときの俺の驚きといったら、左腕を魔物に喰いちぎられたときの次くらいに衝撃だった。
◇◇◇
羊飼いの一日は夜明け前からはじまる。
「セルシウス、朝だぞ」
太陽が稜線から顔を出す前に目を覚まし支度を整える。山小屋に来たばかりの頃は爺さんに起こされていたが、毎日繰り返しているうちに体が起きる時間を覚えた。
「……」
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