1 | 片腕の羊飼い - ベルスタ

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「どう、仕事には慣れた?」  モルは同じ孤児院で育ったひとつ年下の幼馴染で、頼まれた荷物を運ぶクーリエという職業に就いている。こうして山小屋の羊飼いに食糧を届けるのも仕事のひとつだ。 「ああ。狼は二度来たが、今のところ羊たちも俺も無傷だ」 「そりゃよかった…ベルスタ、嫌になったらいつでも」 「モル、ありがとう。俺に不満はないよ。茶を淹れよう、ちょっと待っててくれ」  持ってきてもらったばかりの荷物に茶葉が入っているはずだ。と、荷物に目をやるとベッドで寝ていたはずのセルシウスが麻袋に鼻を突っ込んでいた。 「おい、なにをしている」  声をかけるとがばっと顔を出したが、口には新聞がくわえられている。そして眉をひそめる俺を「間抜けな顔」とでも言いたそうに見つめて小屋の外へ出ていった。 「あはは、セルシウスは相変わらず新聞のインクの匂いが好きなんだな」  愉快そうに笑うモルに、いや読むつもりだろうとは言えない。
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