1 | 片腕の羊飼い - ベルスタ

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「文字も読めるとはな」 「ふふん、お前より賢いぞ」 「…ベルスタ、だ」  意味がわからないと首を傾げるので、しゃがみこみ目線を合わせて、「俺の名前はベルスタだ。お前、なんて呼び方はやめてくれ」と言い直した。それから立ち上がってセルシウスの頭をわしわしと撫でる。  モルの言ったさびしいだ家族だという前に、偉そうな口調からくる見下されている感じをどうにかしたい。 「一緒に暮らしてるんだ、名前くらい呼んでくれてもいいだろう」 「はは、しおらしいことを」  はぐらかそうとするので、「セルシウス」とたしなめる。 「…わかったよ。たいして話もしない相手に一体どういう心境の変化なのか」 「礼儀の問題だ」 「犬に礼儀を求められてもな、だいたい年齢なら私のほうが上なんだぞヒヨッコが。まあ私は寛大だから若輩の戯言として流してやるよ」  ヒヨコ呼ばわりとは恐れ入る。犬の寿命はせいぜい十五年くらいじゃないのか。つくづく得体が知れない。 「それより今晩からしばらく出かける。私が不在中もしっかり羊たちを守るんだぞ」  出かける?
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