1 | 片腕の羊飼い - ベルスタ

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「たしかに山小屋には……あ」 「あ?」 「いや…、うーん」 「なんだ」 「……サッシュならある」 「却下。そんなもの犬の首輪には使えない」 「持ってきてみよう」 「待て待て待て」  サッシュは貰い物だった。軍を辞める際、隊長が記念にくれたものだ。俺はヒラの斥候だったから勲章を飾る必要もなく自分の官服にサッシュは付いていない。  屋根裏へ上がり、私物を入れた木箱から朱色の布地に金糸で刺繍がされたサッシュを取り出す。これを掛けていれば、間違っても野犬には見えないはずだ。  セルシウスは梯子の下で待っていた。 「それじゃ長すぎる」  「そうだな」としばらく考えてから、「いや大丈夫だ、ほら来い」と言っても来ないので俺から行く。 「目立つのは困るんだ」 「無駄死にするよりいいだろう」  サッシュとは細長い布だ。座っているセルシウスの背後にまわり、サッシュが弛まないように口でくわえつつ肩から前脚を通して背へ、それからもう片方の肩も同じように通して背中で結ぶ。片腕でも口を使えばどうにかなる。
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