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#0 あの日の記憶
あたしは天涯孤独だ。別に嘆いているわけじゃなくて事実を言ってるだけ。
家族は交通事故で死んだ。そして、あたしだけ生き残ってしまったらしい。「らしい」と当事者のあたしがいうのも変だけど、つまり、その事故のときの記憶があんまりない。
「大きな事故だったんだよ」とか「あなたが家族の分までがんばって生きないといけないね」とか大人たちが口々に言うのを、病院のベッドの上でぼんやりと聞いていた。
これから何を頑張ればいいの?身体じゅう痛いし、動けないし、誰もお見舞いになんか来ないし、あたしは一人だよ?どうすればいいの?他人があたしの人生に対して勝手に頑張れなんか言わないでよ。
でも、日がたつにつれて、当時の事故のことで断片的だけど思い出したことがある。
あたしは焦げ臭い煙が立ち込めるところに仰向けになっていた。車の天井があったはずところはぼっかりと穴が開いていてその隙間から夜空を見えた。それまであたしはあんまり空を見上げるようなことはしてこなかった。
学校の天文部の男の子が星について目を輝かせて教えてくれたことがあったけど、あたしは少しも星に興味がわかなかった。でも、真っ黒な世界にぽつぽつと青白い光の星が散らばっているのを見て、純粋にきれいだと思った。
確かその男の子は「僕は星を捕まえたことがあるんだ」と言っていた。そんなのありえないし、くだらないとかって思っていたけど、なぜかあたしは星に向かって手をのばそうとしていた。
けれど、全身がだるく、まるで金縛りにかかったときみたいに自分の思うように体が動かなかった。
自分の状況をなんとなく理解していたのか、それとも星がきれいだったせいなのか、とめどなく涙がこぼれてあたしは耐えきれず目を閉じた。
それがあたしの泣いた最後の日。それ以来、どんなに辛いと思っても泣くことができない。心の底からわんわん泣いているやつを見ると、しょうもないやつと思いながらもどこかでそいつに嫉妬している自分がいる。
そして、事故の後、初めは動けないくらい重傷を負っていたあたしだったけど、信じられないスピードで回復して二週間後には一人で立って歩けるまでになった。
お医者さんや看護師さんにどれだけ「奇跡的だ」と言われても、あたしの心に響くことはなかった。だって、あたしの心は傷ついたまま癒えていない。
そうして思い知る。やっぱりあたしは天涯孤独なのだ。
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