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外伝 結婚写真
「佐々木係長は結婚式はしないんですか?」
チームで飲んでいる時に部下の松本に聞かれた。
由香と結婚して3ヶ月。やっと企画部の雰囲気にも慣れ、チームとしても上手くいっていた。
営業とは違った面白さがあり、5人いる部下も若いためか、柔軟な発想で色々アイディアを出してくる。上と調整作業が多い分大変なこともあるが、刺激されることも多く、雄大は毎日充実していた。
「あまり考えてなかったな、そう言えば」
「新婚旅行も行かないんですか?奥さん怒りません?」
チームで最年少の松本は遠慮がない。
苦笑を浮かべ、何も計画がないことを伝える。
部下達は若いからか、結婚式した方がいいだの、奥さんのドレス姿見たくないだの、新婚旅行はドコドコがいいだの、言いたい放題だ。
雄大としても、結婚式とまでは言わないが、由香のドレス姿くらいは見てみたい。だが、以前由香に話したときは「興味がない」と断られていた。
(俺も由香のドレス見てみたいしな)
そう思い、由香と同年代の女性の部下二人に聞いてみる。
「妻は興味ないらしいんだけど、どうやったら興味持つかな?」
雄大は若干聞いたことを後悔した。
二人はマシンガントークで色々雄大にアドバイスしたあと、店を出た後、雄大を駅前の本屋に引っ張り、結婚情報雑誌を買わせたのだった。
「半分持ちますよ」
同じ電車の主任の加藤に甘え、半分渡す。
「悪いな、本屋まで付き合わせて」
「いえいえ、それでも重いですね」
二人に買わされた情報誌は3冊だ。
一番情報量が多いメジャーなもの、アラサー向けの大人婚用、リゾートウェディング用。
雄大には何が違うかさっぱりわからないが、二人に言わすと全然違うらしい。
加藤と別れ、電車を降りた後、情報誌を抱えるように持ち、家路を急ぐ。
(筋トレ並みだな)
袋が破けなければいいけど、と思った。
明日仕事の由香は既に寝ていた。起こさないようにシャワーを浴びた後、雄大は情報誌をパラパラと捲ってみる。
「…すごいな」
きらびやかな情報量に圧倒される。
ほとんど広告だらけで、必要な情報はあまりない。
ファッション雑誌のようなものだろうか?それにしても色々なコンセプトがあるもんだ、と感心する。
ただ、とんでもない分厚さと、目が眩むような中身に疲れて何ページも見ることは出来なかった。
「明日読むか」
リビングの片隅に積み上げたにしたまま由香を起こさないようにそっとベッドに入った。
(なにこれ?)
由香が起きると机の上に雑誌が3つ積まれていた。
プロポーズされたら、というキャッチコピーで有名な結婚情報誌だ。
昨日寝たときには無かったから、雄大が飲み会の後買ってきたのだろう。
結婚式の話は一度出たが、あまり興味が無かった由香は断っていた。
もしかして雄大はしたかったのだろうか?
「…私は見てない」
由香は敢えて見ないふりをして、仕事へ向かった。
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