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外伝 子ども2
家に着くまで雄大は手を離さなかった。一言も喋らない由香に何も言わず手を引き、家に帰る。
家に着き、ソファーに座らせ、由香にお茶をを入れる。自分のも入れて来た雄大だが、隣に腰かけても一言も口を開かなかった。
沈黙が重い。
由香は何か話そうとするが、声にならないまま口を閉じる。
「山口に何言おうとしてたの?」
冷たい声だった。答えられずにいる由香に畳み掛ける。
「俺があそこで声かけなかったら何て答えてた?」
「…」
「俺には言えないんだ」
はぁ、と雄大はため息をつく。
「由香が分からない」
言われた瞬間、涙が噴き出してきた。泣いたらダメだと思えば思うほど涙は止まらない。由香を横目で見ながら雄大は続ける。
「子どもいらないの?」
「…雄大は…ほしいの?」
「出来る出来ないは別として子どもは欲しいよ。…好きな人と結婚したら普通の考えじゃない?」
その一言が由香の怒りに触れた。
「普通がいいなら、普通の人と結婚すればよかったじゃない!」
泣きながら怒る由香をじっと見つめている雄大。これ以上言うとダメだと思うが、由香は止められなかった。
「普通の家庭が分からないし、普通に子どもが欲しいっていうのもわからない。子ども生んでも愛せないかもしれない、って不安に思う気持ち、雄大にはわからない!」
怒りなのか悲しさなのか、ぶるぶる震えながら話す由香にいつになく強い口調で雄大は言う。
「わかるわけないだろ!何も言わないし。っとに!」
「…っ」
また新しい涙が出てきた由香を雄大は強引に抱き締める。全力で抵抗するが男の力には勝てない。
「どれだけ俺が愛してるって伝えても、どれだけ待ってても受け入れないし、話さない。傷つけたくないのに知らない間に由香は傷ついて心を閉ざす。由香、俺の気持ち考えたことある?」
「…っごめっ」
「謝らなくていいよ。それに何に謝ってるの?」
「…」
「言えないんだろ、結局。
…
なぁ、俺どうしたらいい?由香が望むことしてあげたいのに、一緒にいることでどんどん苦しそうな由香に何をしたらいい?」
抱き締めている雄大が小刻みに震えている。由香は何も言えないまま、時間だけが過ぎる。
「…愛してる。…どうしたら由香に届く?」
「雄大…」
肩を震わせ、嗚咽を堪えるように泣く雄大を由香はそっと抱き締める。雄大はうわ言のように、好きと愛してるを繰り返し囁いた。
「…ごめん、情けないな、俺」
ゆっくり頭を振る由香に、泣かせてごめんと重ねて言う。
「私が…」
「由香のせいじゃないから。謝らなくていい。結婚できただけで最初は良かったのに…欲が出たんだ。
ちゃんと待つから…もし言える時が来たら話して欲しい。
言えなくてもいいから。由香が少しでもしんどくないように支えるから、だから…側にいて欲しい」
「雄大…」
「ごめん、今日先に寝る」
そう言い残し雄大は寝室に引き上げる。
残された由香はソファーから立ち上がれなかった。涙が止まらなかった。知らず知らずの内に雄大を傷つけていたことに後悔の念が沸き上がる。
謝らせても貰えなかった。
それほど傷つけていた。
あんな風に雄大に思わせてしまった。
なんで、私は雄大に言えないんだろう…。
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