外伝 子ども3

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外伝 子ども3

「由香、風邪引くよ」 気付いたらソファーで寝ていたようだ。目覚めた雄大が揺り起こす。 「目、腫れてる。ごめん」 そういって雄大はアイスノンとタオルを持って、もうしばらく横になっていたら?という。 素直に甘えてソファーに横になる。 目の上に乗せたタオル越しの冷たさが心地いい。 側に雄大が座る気配がした。 「昨日はごめん。泣かせるつもりはなかった」 止まった筈の涙がまた溢れてくる。涙腺が緩くなっているようだ。 苦笑しながら雄大は言う。 「俺、泣かせてばかりだな、昨日から。それでも昨日由香が少し本音を言ってくれて嬉しかった」 「…ごめんなさい」 「謝らなくていいよ、由香は悪くない。 …ちゃんと待とうと思ってたのに。 あまり会ったことのない山口の方が由香のことが分かっているようで… それで嫉妬して泣かせて… 本当にごめん」 由香はゆっくり首を振る。 「…三ヶ月前、生理が遅れたの」 「うん」 突然話し出した由香の手を握り、雄大は話を聞く。 「その時は妊娠していなくて…ホッとした。 雄大のこと受け入れていたつもりだったのに、妊娠しているかも、と思うと怖くて…ホッとした自分に愕然とした。 母の夢を見なくなって乗り越えれたと思っていたのに… 子どもが生まれてきちんと愛せなかったら、可愛く思えなかったら、雄大が子どものことを可愛がっているのを見て、羨ましいと思って育児放棄してしまったら。 そう思うと、子どもが欲しいと思えなくなった」 そういう由香に雄大は言う。 「三ヶ月前もし妊娠していたら堕ろしていた?」 「多分生んでいた。でもしんどかったと思う」 「そっか」 雄大は何かを言いかけ、その言葉を飲み込む。 そして何度か目でやっと絞り出した。 「自然に…任せてみないか?」 由香は何も言わない。 「正直、本当に由香の不安が分かっているわけじゃない。 だけど、もし妊娠したら生んでいた、という由香は本当に子どもが欲しくないんじゃなく、愛せるか不安なだけなんだろ?」 こくん、と頷く由香。 「なら、自然に任せてみないか? それに、子ども育てるのが100点満点で採点するとしたら、由香は1人で100点を目指そうとしているけど、俺と二人で100点でいいんじゃない?」 「二人で100点…?」 そう、と答える。 「二人で100点。それでも100点目指して子育てしても多分100点全部は伝わらないと思う。でもそれでもいいじゃん。子どもの人生なんだから」 親が出来ることっていったら、衣食住の保証とちゃんと社会人として適応できるように育てることくらいだろうし、と雄大は言う。 「それだけでいいの?」 「それだけで充分だよ」 それでも、由香が子ども欲しくないならちゃんと避妊するし、と言う雄大に、由香は少し考えてみる、と答えた。 「いいよ、ちゃんと今度は待つから。でも何かあったら溜め込む前に言って欲しい」 それから二人は表面上は穏やかな日々を過ごした。一緒に寝るが体を重ねることはない。 時々由香が本を持って部屋に閉じ籠る。目が赤い時があるが、雄大は敢えて触れなかった。 今度はとことん待つつもりだった。 「一緒に行きたいところがあるの」 1ヶ月もした頃、由香はある島の名前を告げた。瀬戸内海にある小さな島。 由香ははっきり話さないが行ったことがあるようだ。 「いいよ、行こう」 せっかくなら、と二人で有給を取り、行くことにした。
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