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プロポーズ3
「ごめんなさい、結婚できない」
答えを予想していたのだろう、雄大の表情が変わることはなかった。
沈黙ー。
耐えきれなくなった由香が別れを口にしようとした瞬間、雄大が口を開いた。
「あと2週間一緒に過ごしたい。」
由香との約束を破るけど。転勤するんだ、アメリカに。
そういって今までで見たことのない苦しそうな顔で笑う雄大。
一瞬真っ白になった由香の口を塞ぐように深く口づけする。
ーダメだ、流される
ーこれ以上はうまく取り繕えない
頭の中で激しく警告がなる。
仮面が剥がれる音が聞こえる。
断らないと、と思い、口づけの合間に言葉を発しようとするが。
雄大の目を見て由香はもう拒めなかった。
今まで一度も見たことがない雄々しい目。
逃げることを許さないような激しい感情を瞳に宿している。
ー逃げるともっとひどいことされる
一度もひどいことをされたことがないのにも関わらず、ふと浮かび上がった気持ちに抵抗する気力はなくなった。
力を抜いた由香は雄大に身を預けた。
行為が終わったあと、意識を失うように眠りに落ちる
ーまたこの夢だ。何度も何度も繰り返し見る2つの夢。
その度に涙を流し飛び起きる。もうどうしようもないのに、由香が忘れるのを許さないように何度も何度も見てしまう夢。
特に最後に見た夢は、一番見たくない夢だった。
(うなされるだろうなぁ)
そう思ってももう止められない。
「あなたが男じゃないからお父さんは捨てたの」
「あなたさえいなければ」
ーごめんなさい、いいこにするから、男のように手に職をつけてお母さんを養うから
小学生の由香が必死に母親を慰める。
それでも母親は由香の中にかつて愛した男の面影を探して由香を詰る。
ーごめんなさい、ごめんなさい。
泣きながら謝る幼い由香。
(もうここで目が覚めて!)
そう願うが思いは届かない。
「由香さえいなければ。
由香なんか愛する人なんか現れない」
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