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プロポーズ4
由香は飛び起きる。
心臓の鼓動が耳にまで聞こえる。泣いてもいたようだ。
(やっぱりうなされていたんだなぁ)
心配そうにこちらを見ている雄大の視線から目を反らす。
今、そんな目で見られても受け止める余裕はない。
必死に呼吸を落ち着けて、ついでに涙をぬぐう。
「いつものことだから、心配しないで」
心配するな、という方が無理だとわかっているが、これ以上踏み込まれたくない。
予想していたよりも冷ややかな声で雄大の心配を拒絶する。
雄大は、一瞬辛そうな顔を浮かべたが
「わかった」と呟き、「シャワー浴びて来るから少し休んだら?」と、そばにティッシュを起き、由香を一人にしてくれた。
トラウマなのだろう。
何度も何度も繰り返し見た夢。
寝不足の時や過度のストレスがかかったとき、そして恋人から愛を伝えられた後。
決まって夢を見る。
由香にとって「愛している」という言葉は自分の心を縛る鎖だった。
1年付き合った雄大にも、その前の恋人にも自分から愛しているとは言ったことはない。
愛は信じられない。
そのせいで過去の恋人とは上手くいかなくなり別れて来た。
(なのにこんなに雄大のこと好きになっていたんだ)
全身で雄大のことを受け入れた時に感じたのは圧倒的な幸福感だった。
だけど...
雄大のことを傷つけ、自ら手放した。だからもう、由香はこの気持ちを伝えないと決めた。
雄大が望んだ2週間。
その間だけ今まで通りに過ごそうと。
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