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二週間1
「珍しいな、佐々木がここにいるなんて」
「たまにはな」
喫煙所に大学からの腐れ縁の山口が入ってくる。
「由香ちゃんにフラれたか?」
友人の遠慮のなさでズカズカ聞いてくる。
「まだ別れていない…と思う」
「そっか」
それきり山口は話さず、タバコを吸い始める。
こういう時何も言わずに放置してくれる友人の優しさに甘えて、雄大は昨日のことを思い出していた。
由香が壁を作っているのはわかっていた。時々無性に壊したくなったが、何かに怯えるような目をするので、今までは踏み込むことはしなかった。
いつもはバリアをはって踏み込ませない内側に僅かなほころびを見つけた。
家に来たときから寝不足の顔をしていたからいつものように上手く隠せなかったんだろう。
いつもより愛しく感じた。
(知られたくなかったのは、その後のことだろうな)
意識を手放すように眠りについた由香だが、何度かうなされていた。
母親に対して謝っていたから、うなされていた内容は恐らく家庭のことだろう。
親のことも育った家庭のこともあまり話さない。唯一聞いていたのは、両親ともにいないこと、妹は既に結婚して関西にいることだけ。
「どうするかな」
「なにが?」
声に出ていたようで、山口が返事する。
首を横に振ろうと思ったが、ふと気が変わった。
「お前、今晩暇か?」
「今日は合コン」
「なら暇だな、7時にいつものとこな」
「奢れよ」
そう言い残し先に山口は部屋を出る。
後を追うように雄大も仕事に戻った。
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