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二週間2
「別れたら?」
山口は淡々と呟きビールを煽る。
プロポーズしたことこと、アメリカ行くまでは一緒いたいということ、そしてうなされていたことを簡単に話した後、間髪いれずに言われる。
「プロポーズも断られているし、お前ももうすぐアメリカだろ?
それに言いたくはないが、彼女の過去もトラウマもすべて背負えるのか?」
「…それでも好きなんだ」
「好きだ、なんだは誰でも言えるさ」
雄大は返事ができずビールを飲み干す。
「元々彼女はそんなに長くお前と付き合うつもりはなかっただろ?」
そう、由香は付き合う時にいくつか条件を出して来た。
結婚する気はないこと。
雄大が転勤するときは別れること。
そして長くても1年は付き合わないこと。
「何がよかったんだ、由香ちゃんの」
「感性が似てたんだよ。」
由香と出会ったのはずっとファンだった作家のサイン会だった。
サイン会のたまたま前後の整理番号になり、お互い一人で来ていたので自然と話をする。
成り行きで連絡先を交換し、読み終えたら感想でも言い合おうと社交辞令的に別れたはずだった。
発売日を指折り数えて待っていた雄大は家まで待ちきれなく、近くのカフェで買ったばかりの本を貪るように読んだ。
読み終え、先程の彼女は読み終えたかな、と思ったとき、携帯がなった。
「読み終えました!」
恐らく彼女も待ちきれず、どこかで読んでいたのだろう。
すぐに連絡を取り合い、由香がいるファミレスで色々な話をした。
初対面にも関わらず、話が弾んだ。
4時間も、酒も飲まず女性と語り合ったのは初めてだった。
(もっと彼女のことを知りたい)
女性にそういう感情を持ったのは初めてだった。
「2週間もあるんだろう?足掻いてみれば?」
それでダメだったとしてもお前も吹っ切れるだろう。
出会った時のことを思い出している雄大を見て落ち込んでいると勘違いした山口は慰めの言葉を口にする。
「俺は由香ちゃんのこと、好きじゃないけどね。」
余計な一言を付け加えるのも忘れない。
「それに由香ちゃんは隠したかったんじゃないのか?そういうトラウマを抱えていることを。
1年近く付き合って、何度もベッドを共にして、うなされていたのは初めてなんだろう?
なかったことにはできないんだ。
いつものお前なら、これをいい機会ととらえて由香ちゃんと向き合ってみたら?」
はっと目が覚めた。
長く友人なだけあって、雄大のことをよくわかった上でのアドバイス。
山口は決して認めないだろうが、あの時間に喫煙所に来たのも敢えてだろう。
山口にだけはダメ元でプロポーズをすると伝えていたから。
少し寂しくなるな。
そう感じたが、照れくささもあったため、別の言葉で山口に伝える。
「ありがとな、ここは奢るよ」
「…最初から佐々木の奢りだよ」
10年来の付き合いのため、雄大の気持ちはうまく山口に伝わったようだった。
山口と別れ、家に向かう雄大は先程の会話を思い出していた。
(無かったことにはできない、か)
あの夜のことを触れずにあと2週間過ごすことはできるだろう。
ただ、忘れることはできない。小さい刺のようにことあるごとにチクチクと痛み出すだろう。
(当たって砕けてみるか)
どちらにせよ、期限は決まっている。
ならば足掻いて、本音を聞いてみたい。
雄大は、決意を固めると由香に電話をかけた。
もしかしたら出てくれないかも、と思ったのは杞憂だった。
わずかなコールで出た由香に水曜日に会えないか聞いてみる。
「転勤の準備で有給貰っているんだけど会えないかな?」
水・日休みの由香に合わせて敢えて水曜日に取った有給。
昼からなら、と言う由香に家に来てほしい旨を伝える。
「渡したいものがあるんだ」
外で会うことを希望した由香に伝えるとしぶしぶだが家に行くことを承諾した。
時間を決め、電話を切った雄大は家路を急ぐ。
(由香がくる前に荷造りしとかないとな)
雄大との電話を切った後、由香はため息をついた。
会うのも億劫だが、雄大の家というのが一番のネックだった。
いつもは読書をしている時間。だけど由香の手には本はなかった。
何度も何度も昨日のことを思い出す。
体に残った雄大の感触。
どうすれば良いのか分からないまま、由香は悩み続けた。
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