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水曜日2
「由香が何か隠しているのは知っている。触れられたくないってことも。
それでも俺は由香のことを全部知りたい。
良ければ話してくれないか?」
あまりにも直球な言葉に由香は固まった。
「…言えない」
「じゃあ何で日曜日、会いたいって連絡くれたんだ?今までなら、そんな精神状態で会いに来なかっただろう?」
痛いところを突かれた。確かに雄大の言う通り、精神的に不安定な時は会うのを避けていた。
「…プロポーズに動揺していたの。
その日あまり寝れなくて、どうしたらよいか解らなくて考えてたの。あと出会ってからのこと思い返してて。断るなら早く会おうって思って。そのほうが雄大傷つけないから」
うつむき話す由香。今雄大はどんな表情なんだろう。
長い沈黙。耐えきれなくなった由香が顔を上げた時、雄大が言った。
「なぁ、本気で言ってる、それ。」
雄大の顔を見ると笑顔だった。
「100%断られること前提だったのに。
自分のことより俺のこと優先で。
そこまで俺のこと想ってくれてたんだろう?
それって俺のこと大切だからだろ?」
「なっ」
「俺のこと好き?」
至近距離で見つめられると由香は耳まで真っ赤になる。
「俺は、由香のこと愛してる」
言われた瞬間由香の瞳に緊張が走った。
「どんな由香でも愛してる。日曜日みたいに深いところまで俺のことを受け入れてくれた由香も、うなされていた由香もみたけど嫌いにはならなかった。
由香が望むことなら何でもしてあげたい」
転勤辞めてとかは無理だけどな、と微笑む。
「だから言いたくないならそれでもいい。二週間後別れるのも由香との約束だから受け入れる。話を聞いて欲しいのなら聞く。
ただ、知っといて欲しい、俺は由香と出会えたことを後悔したこともないし、初めて女性に向かって愛してるという人に出会えた。その事だけ知っておいて欲しい」
ありがとう。と雄大は感謝を伝える。
由香は何も言えずに黙って頷く。
雄大は由香の頭を撫でたあと、「飲み物いれてくる」とキッチンにたった。
キッチンからヤカンに火をつける音が聞こえる。
ふぅ、とため息をつき、由香は考えた。
望んでいることはある。
残された時間徹底的に愛して欲しい。
それで雄大への気持ちに蹴りをつける。
雄大は沢山の愛をささやいてくれるが、その愛が枯渇したら?
依存しすぎて雄大を苦しめたら?
離れていてもし、雄大に好きな人ができたら?
アダルトチルドレンの傾向がある由香は、雄大が言ってくれたことを全部真正面から受け入れることは出来なかった。
それなら、母親の鎖の代わりに新たに雄大の印を身体中につけて、この身を縛って欲しい。
そうすれば母親の夢のように雄大の夢を繰り返し見て、愛されていたことがあると実感できる。
由香にはそれで充分だった。
お茶を入れ戻ってきた雄大に、由香は今の自分の望みを言う。
「日曜日の時みたいに抱いて欲しい」
息をのむ雄大を前に立ち上がる。
「先にシャワー借りるね。」
立ち上がった由香の手をつかみ、雄大がささやく。
「誘ってるの?」
獲物を捕らえた雄のような目をした雄大を真正面から見つめかえし、由香は頷く。
手を振りほどいた由香は足早に風呂場へ向かった。
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