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残された時間1
それから雄大と由香は時間が許す限り一緒にいた。
夕食を外で食べるだけの日もホテルで体を重ねることもあったが、二人は残された時間を惜しむように共に過ごした。
「遠距離でも頑張らないか?」
何度か雄大はいうが由香は首を振り続けた。
雄大が出発する土曜日。由香は有給を取ることにした。
「空港まで見送るね」
そこできちんと雄大に別れを告げる。
「ありがとう、それなら金曜日由香の家に泊まってもいいか?
そのまま空港に行くから。」
由香は了承し、金曜日は早く帰ろうと決めた。
同期との送別会の後、雄大は山口と行き着けのバーに来ていた。
「いよいよだな、気を付けろよ。」
「ありがとう」
ひとしきり会社の話をした後、山口は由香のことを聞く。
「土曜日別れるよ。…無理だった」
「ふーん、ま、いいんじゃない?新しい出会いもあるだろうし」
「新しい出会いあっても、深い関係にはならないよ。
由香のこと引き摺るのはわかっているし、しばらく仕事に生きるさ」
まぁ、けじめつけていけよ、という山口にこの2週間避妊していないことを話す。
呆れる山口に、妊娠していたら堂々と責任取れるから、と伝える。
「バカだなぁ。由香ちゃんが言ってくれるかどうかわからないだろう?」
「だから山口に頼みたいんだ」
「へ?」
「三ヶ月後、一度由香に会ってこの手紙と本渡してくれないか?」
「自分で送れよ」
「いや、由香は俺からの連絡はすべて断つよ。だから山口に頼んでいる」
人を修羅場に巻き込むなよ、とぶちぶち言う山口に拝み倒す。
「渡すだけでいい、頼む」
「俺は由香ちゃん嫌いだからきつく言うぞ」
「それでもいい」
「忘れるかも?」
「それでもいいから、頼む」
根負けした山口は、雄大から差し出された手紙と本が入った紙袋をしぶしぶ預かった。
「お前と10年以上付き合っているがここまでアホだとは知らなかった」
「俺もだよ」
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