３つのこぼれ話（ラテン系の恋人、他）

ディケム

　ワイン係は、要人のテーブルをまわり、最後にフランス人記者らのテーブルまで来た。
「ラベルをご覧になりますか？」
　記者のひとりがラベルを読んだ。『ソーテルヌ・ディケム』とある。記者はいぶかしげに顔を見上げ、ワイン係は微笑んだ。
「もちろん、お気に召されなければ、お飲みになられなくてもけっこうです」

　ワイン係は，他のフランス人記者それぞれにラベルを見せて、グラスに赤ワインを少しだけ注いでまわった。
　デザートとコーヒー、晩餐会は何事もなくお開きになった。フランス人のテーブルに、赤ワインだけが残っていた。