朝を待つ

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 私たちは同じ児童養護施設で育った。私がこの児童養護施設に入ったのは、7歳の時。育児放棄で2日放置された後のことだった。それ以前から環境はすさんでいたらしいけれど、すぐ忘れてしまう質だからよく覚えていない。つらい目に遭ってもたちまち消えてしまうから、ほんとうに都合のいい性格だと思う。  あなたはそれよりずっと前から施設に入っていて、その時は私より二つ年上だから9歳。小学生らしからぬ手際で彼は新入りの私にトイレの場所やら洗面所やお風呂場でのルールやら懇切丁寧に教えてくれた。  その頃からずっとあなたの髪は白かったけれど、それよりも私が気になったのは、彼がいつも笑顔でいたことだった。こういう場所って多少なりとも傷を抱えて笑えない子ばかりかと思っていたのに、彼はどんな時も笑顔を絶やさなかった。むしろ彼がいると、空気が明るい方向に向かってきらきらとひかり輝いているように見えた。まるで不幸なんて背負っていない、普通の子どものように。  その理由をほんの出来心で訊いてみたことがある。私たちは施設の運動場の片隅にあるブランコを漕ぎながら、中央でドッジボールをしている他の子たちを眺めていた。
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