馬券のゆくえ

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馬券のゆくえ

「お話は伺いました。大変そうですね」  佐竹がしゃがみ込み、颯に声をかけた。 「いえ……私が落としたので、大丈夫です」  颯は言葉少なにそう告げると、佐竹が言葉を続けた。 「この場外馬券場で買われたんですよね?」 「はい」 「何階で買われました?」  佐竹は颯の隣でしゃがみながらそう問いかける。 「そりゃあ、この2階で買いましたよ。ホントにやらかした……」  颯は佐竹と目を合わさぬままそう告げる。 「大変ですね。どういった買い方をなさったんですか?通常の買い目ですか?それとも、フォーメーションですか?」 「それは……」  一瞬、颯の口の動きが止まった。 「流しですよ流し。ほら、6番と8番はそこそこ人気してたんで、そこから総流しで100円ずつ。1着から3着の間で着順が入れ替わってもいいように、マルチで買っています」 「ということは、このレースは16頭立てですから、 元々8400円も買ってらっしゃったんですね。だったら余計に大変だ」 「……はい」    怪訝そうな表情を浮かべてそう答える颯の姿を見て、蓮が颯の顔を覗き込んだ。 「なぁ、もう諦めようぜ。ほら、沢山人のことも巻き込んでるみたいだしさ。帰ろう」  蓮はそう言って颯の肩を揺さぶる。その手からは強い意志のようなものが伝わってきた。 「そうだな……」  颯がそう言って立ち上がろうとしたその瞬間のことだった。佐竹が颯の肩をがっちりと掴んだのである。 「もう、探すのやめちゃうんですか?それとも……」  佐竹はそう尋ねながら颯の顔をじっくりと覗き込んだ。颯は思わず佐竹から目を逸らした。佐竹はその様子を窺いながら、再び口を開いた。 「それとも、本当は94万馬券なんてそもそも買ってすらいなかったんでしょうかね?ハヤテ・ワイバーンさん」  ハヤテ・ワイバーンの名が佐竹の口から発せられた瞬間、颯と蓮の背筋が完全に凍った。
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