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暴かれる正体
ギョロリとした瞳をした楓を前に、佐竹は話を続ける。
「実はね、つい先程職員の方に通報が入ったんですよ。迷惑系動画配信者のハヤテ・ワイバーンがこのフロアで撮影を行っているとね。しかも複数人でスマートフォンのカメラを回しているという情報も入ってきたんですよ。ほら」
佐竹に促されるままに颯が辺りを見てみると、カメラ担当を任せていた拓也、剛、誠は皆、緑色の制服を着た職員に事情を訊かれている様子だ。
「ハヤテ・ワイバーンさん、あなたは当たり馬券を落としたと、わざと嘘の内容を叫びましたね?周りに人を集めて、探させるために」
佐竹の視線が颯の顔に鋭く突き刺さった。
「ちょっと、いくら何でもそれはあんまりじゃないですか?僕はちゃんと馬券を買って、落としたんです。それとも何ですか?僕がその馬券を買っていない証拠でもあるんですか?」
颯の問いかけに答えぬまま、佐竹は無線で他の職員と通話を始めた。
「さっきの件、裏はとれましたか?」
「了解です」
佐竹は通話を終えると、無線を切った。
「さぁ、出してくださいよ。証拠を」
「その前に確認をさせてください。あなたが買ったのは6番と8番からの総流しマルチの3連単、買ったのはこの場外馬券場のこのフロアの窓口。間違い無いですね?」
「間違い無いですよ。何度も言わせないでください」
颯の声には少しずつ苛立ちの色が混じり始めていた。その姿を冷静に眺めつつ、佐竹は首を横に振った。
「おかしいですね。先程集計担当の者に確認したところ、2階の券売機からはあなたが言っていた投票券は1枚たりとも発券されていないんですが」
「そ、そんなの、言いがかりだろ?」
「いえ。言いがかりではありません。事実を申し上げています。2階フロアでは一切、あなたの言う買い目の投票券は発売されていないんです」
「だとしたら、僕が勘違いしてたんだ。3階か、4階か、5階か、どこかのフロアで買ったんだろ。それだったら、あるだろ?」
しどろもどろな口調になってきている颯を目の前に、佐竹はため息をついた。
「あなたはまだ分かってないんですね。今日の京都はメインレースとは言ってもそこまで格の高いレースが行われているわけではない。となると、そこまで馬券の売り上げがある日では無い。また、配当が高ければ高いほど、的中する人の数は当然減る。あなたが当てたという94万馬券ですけど、全国数十箇所の馬券売り場全部合わせても、的中票数はたったの440票でした」
唇を噛み締める颯を前に、佐竹は話を続ける。
「この場外馬券売り場で出た的中票数は、たったの3票です。その票の中に、あなたが証言したものと同じ買い目の投票券は一切ありませんでした。そしてそれらの的中投票券ですが、すべてもうすでに払い戻しは済まされています。さぁ、どういうことか説明してもらっていいですか?」
颯に詰め寄る佐竹の元へ、1人の職員がやってきた。佐竹は二度ほど頷くと、立ち上がった。
「誠という青年が、君の指示でこの様子を撮影していたと吐いたよ。さぁ、君の口から全て説明してもらおうか」
颯は舌打ちをした後、観念したかのように口を開いた。
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