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日が明けて月曜日の昼、蓮は学生食堂でチキン南蛮をほおばっていた。昨日ともに撮影をしていた拓也、剛、誠も同席しており、テーブルの上の話題は昨日の撮影のことで持ちきりだった。
「なぁ、颯の奴、編集順調かな?」
蓮はそう尋ねると、拓也がカレーのスプーンを持つ手を止めた。
「颯さんって何かに没頭しているときって電話もLINEもメールも含めて一切の連絡断つじゃないですか。だから今頃編集に没頭しているんじゃないですか?」
拓也が笑顔でそう答えると、
「それもそうだな」
蓮がそう答え、皆が一斉に笑った。
「それにしても、職員に捕まったときはホントにどうなることかと思ったよ」
剛が苦笑を浮かべながらそう語る。
「そうですよね。あれは撮れ高を全部消されることまで覚悟しました」
誠はそう言いつつ安堵のため息をついた。
「でも、どうして消されなかったんだ?あれだけの騒ぎになったんだから、俺も全部消されてると思ったよ」
「消されなかったんじゃないんですよ。消せなかったんですよ」
蓮の問いに対し、誠が答えた。
「消せなかったのか……」
「そうなんだよ。誠の動画も拓也の動画も、勿論俺の動画も消せなかったんだ。職員から色々言われて、消そうとしたんだけどスマホの画面に『この動画は消すことができません』って出てな。再起動したり、初期化しようとしたり色々手は尽くしたんだけど、消えなかったんだよ。職員に任せてみたりもしたんだけど、その職員も結局消すことができなくてね。で、まるまる返してもらえたってわけ。お陰で動画は全部、無事だ」
剛はそう説明した後、親指を立てた。
「そうか。そうなってくると編集のアップが楽しみだな。ヒトの醜さを如実に表した凄い動画になるはずだぜ」
蓮が目を輝かせてそう息巻くと、他の3人も力強く頷いた。
昼休みの学生食堂は空席がほとんど見られず、食事をしながら友人同士でサークルの話や恋愛の話などに花を咲かせる学生達で賑わっている。蓮達もその風景に完全に溶け込んでいる。
ただ、蓮達4人は颯の身体がすでに冷たくそして固くなっていることをまだ、知らない。
【終】
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