都橋探偵事情『花虻』

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都橋探偵事情『花虻』

 桜が満開でも人が満員でなければやはり花見は寂しいもんだとコロナが教えてくれた。大岡川沿いの桜は例年通り満開を迎えた。しかしその下に人はいない。顔が半分隠れるほどの大きなマスクをした年寄りが都橋の欄干に凭れて上流を見ている。福富町側に回って桜の下をゆっくりと歩く。 「おはようございます」  ソープランドの店員が挨拶した。 「ああ、おはよう。どうだね調子は?」 「全然、市から営業するなってお達しが来てます。どうすりゃいいんですかね私達は?」  店員は嘆いている。 「女の子はどうしてる?」 「若い客は敬遠されますよ、それかマスク着用、マスクしたままのサービスじゃ客は嫌がりますよやっぱり、マスクの真ん中に穴開けてリップサービスする子もいますが評判良くないっすね」 「お先ー」  サービス嬢がひとり帰った。 「あの子は逆にマスクで助かってますね」  見合って大笑いした。 「どうです旦那、たまには垢流していったら、サービスさせますよ」  年寄りはせがれに念を掛けている。 「駄目だな」  じっと気合を入れたが反応がないようだ。 「またどうぞ」  
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