都橋探偵事情『花虻』

237/259
前へ
/259ページ
次へ
「ワッシーだいじょぶ?」 「ありがとうございます。朝刊休まないで済みました」 「そっちか」  ミッチが笑って手を出した。ワッシーが引っ張り起こされた。 「もう、可愛い」  ミッチにハグされる。徳田が見ていた。ワッシーと目が合った。徳田はゆっくりと視線をずらした。二人が庭に駆け付けるとそこには中西と蜷川が対峙していた。中西を援護するようにマーロウがバットをゆっくり回している。 「愈々おめえと俺の一騎打ちだな。ダンビラ鞘に納めてその肥溜めに飛び降りりゃ許してやる。まだ若えおめえを断つのも可哀そうによ」 「腐れじじい、ほざくのも大概にしろ。戦に負けてもてめえの首はその肥溜めに叩き落とす」 「マーロウ手出すな、なかなかの根性だ、その根性に乗じて相手になってやる」  みんなが二人の一騎打ちに目を見張る。轟はその隙に逃げ出した。 「父さんあいつ逃げる」  屋根の吉川博が言った。 「博、二人を幸せにな。父さんは轟を討ち取れば自首する。お前達は関係ない。鮫洲記者が記事を捏造してくれる。長い間父さんに付き合わせて悪かった。でもお前達と過ごせて幸せだった」  真奈美が武三に抱き付いた。孫の頭を撫ぜて梯子を下りた。博が上空で待機させていた三機のドローンが逃げる轟を追う。    中西が横走りする。それと平行に蜷川が走る。蜷川は刀を肩に背負っている。刀身は背中にあり中西からは見えない。隙あらば横一閃。妖刀で受けても勢い負けするだろう。横走りから止まった中西に閃光のようにダンビラが斬りかかる。中西は後ろ走りでやっと躱す。予想以上に伸びて来る。リーチを最大限有効に使う。空を切ったダンビラは一回転して元の背中に戻る。中西はまた横走り。止まればダンビラが連続で斬り付けて来る。二回転、三回転、四回転目には首が落ちる。  
/259ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加