都橋探偵事情『花虻』

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「西じい」   ミッチが心配で前に出ようとするのをマーロウが止めた。 「君が目に入れば心配で勘が鈍る」  マーロウに諭された。中西は剣士、やられるのも本望、その時は俺が仇を取る。マーロウは二人をじっと見つめている。    徳田が逃げる轟を追い掛けた。畑の石を拾って投げ付けた。轟の足に当たった。轟は転んだ。その上をドローンが旋回する。ブレードはカッターナイフの刃を加工した凶器、手で払えば指が飛ぶ。三機が轟の前進を邪魔する。博が操縦する三機とは別の一機が上昇する。黒い機体にひまわりのシール。プロポにセットしたスマホ画面に轟を捉えた。博の操る三機はバッテリー切れの黄色い点滅。飛行限界、せめて轟に体当たりさせる。轟は上着を脱いだ。近寄る一機を上着で振り落とす。逆様になった機体を踏ん付けた。 「この野郎ふざけやがって」    二機目が肩に当たって落ちた。ワイシャツに血が滲んだ。三機目はバッテリー切れで畑に墜落。 「おおい」  畑をバスに向けて走る轟に声を掛けたのは徳田である。轟が振り返る。このじじいなら容易い、武闘はからっきしだがせめての腹いせにこのじじいはぶっ殺してやる。轟は尻のポケットからおもちゃみたいな飛び出しナイフを取り出した。セレーション付きの刃渡り十センチ、チンピラ時代からずっと持ち歩いていた。脅す程度で使用したことがない。徳田もコートからステッキを抜いてスライドした。轟が徳田に向かって走り寄る。距離二十メートル。  蜷川がじりじりと間を詰める。中西の背後には肥溜め、穴からゾンビのように手が伸びている。地下水も増し首までずっぽり肥に嵌った男達になす術はない。『うをを~い』お出でお出でと呼んでいる。中西が右に寄ると右から一閃、左に寄ると左から一閃。蜷川は回転しながら持ち手を変えている。刃は真後ろ、中西にもう後はない。
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