都橋探偵事情『花虻』

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「西じい」  ミッチが駆け寄る。 「来るな」  中西に一喝され立ち止まる。マーロウがミッチの肩を抱いた。マーロウには中西の気持ちがよく分かった。立場はどうあれ一剣士同士、他少の技量差は真剣勝負では無いに等しい。命を張っての一騎打ちは運が味方しなければ勝ちはない。悪党でも剣を修行する過程は変わらない。最初の出遭いが人の進行方向をほぼ決めてしまう。蜷川も轟と言う腐れ外道に出遭わなければやくざになることもなかったろう。マーロウは自身の生い立ちに近いこの若者が哀れに思えた。  じっと月を見上げていた中西が庭で立ち尽くす皆に頷いた。ワッシーとミッチが屋根から降りる真奈美と子を支えている。最後に博が下りて来た。棟を跨いで立っているのは吉川武三。 「親父は」  中西が博に訊いた。 「轟を追っています」  そう言えば徳田がいない。時計を見ると01:01分。 「マーロウ、勝負はついた、後は主人の最後の敵討ちだ。ここは任せろ。横浜に戻って林に寄り添ってやれ」 「はい、後は頼みます。特に所長を、張り切ってるからちょっと心配」  マーロウは笑って言った。 「おお、分かった。序にうちの弟子を乗せて行ってくれ」 「お願いします」   ワッシーがマーロウに礼を言う。 「行こう」  裏の桟橋を倒した。幌を捲るとCB750。ワッシーはマーロウの腰に捕まった。鉄のように硬かった。 「倅、親父と話はついてるんだろ」  中西は博に尋ねる。
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