都橋探偵事情『花虻』

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「はい、しっかりと」  博の握る拳を見て中西は頷いた。親父一人が罪を被る。娘を残虐な殺され方で失った。その敵討ちが果たして罪なのか、釈然としないが時が残虐レベルを薄めてしまった。 「ミッチ、残党が屯しているかもしれねえ、安全と思うとこまで護衛してやれ。いいか、油断するな。ここの次は葉山の親父の敵討ちが待ってるからな」 「西じいも気を付けて」 「終わったらご褒美くれる?」  手真似で乳をモミモミする。 「糞じじい、死ね」  ミッチは笑って博親子が乗るワゴンの後ろについて走り出した。中西がトラクターに乗って裏から畑に出た。旗指物の七つの丸にバツは付かなかった。畑に出ると徳田と轟が対峙している。轟が徳田に迫っている。徳田もステッキをスライドして轟を迎え撃つ体勢。中西が警笛を鳴らした。トラクターはネギ畑を対角線に進む。下敷きのネギが甘苦い香りを漂わせる。 「おらっ」  中西は徳田に突進する轟に叫んだ。轟は中西に気付いて攻撃を止めた。ターンしてバスに向かって走り出す。徳田が逃げ出した轟を追い掛ける。ネギに躓いて転んだ。徳田の横をトラクターが通過する。徳田が起き上がりコートを脱いでズボンに付着した泥をパタパタと叩いた。 「取れた、泥?」 「ああ、それほど目立たないだろう、帰ったらすぐにクリーニングに出す」 「あっそう」  こんな時に余裕をかます徳田に中西は首を傾げた。中西が旗指物を高く翳した。屋根で見ている吉川武三が深く礼をした。朧月の中から花虻が急降下する。轟はバスの運転席目掛けて突っ走る。 「おりゃあ」  
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