都橋探偵事情『花虻』

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 これ以上話しても面倒臭くなるだけだと中西は「じゃあ」と畑を歩き出した。妖刀をパターケースに入れて背負った。 「乗って」  ミッチがセルを回す。中西が跨り怒鳴られるのを承知で胸に摑まった。ミッチは何も言わずに走り出した。ご褒美か?軽く揉むと『糞じじい殺すぞ』と怒鳴られた。畑を見ると徳田がトラクターに乗っている。畑の桜の横を通過した。まさか本当にトラクターで行くとは考えもしなかった。  深夜三時、この時間に警察に用向きがあるならよっぽど緊急だろう。 「どうしたのおじいちゃんこんな夜中に、何かあったの?」  男が黙っていると受付の婦警が「こっちへどうぞ」と男を連れて行く。 「どうかしましたか?」 「空き巣の手伝いをしました」  男は堂園である。横山興産に真崎を先導して鍵を開けた。 「何処で?」 「花咲町の管理を任されていたビルです」 「ちょっと場所を替えようか」  当直は堂園を取調室に連れて行く。 「どうした?」  署に戻っていた安岡刑事が巡査に訊いた。 「自分の管理していたビルに空き巣に入ったらしいんですよ」 「場所は?」 「何でも大騒ぎになっている花咲町のビルらしいです、言ってることがおかしいんですよね、シャブでも喰らってんじゃないですか」 「よし俺が代わろう、お疲れさん、休んでていいから」 「記録は?」 「要らない要らない、認知症かもしれないし」  安岡は当直を追い払った。大騒ぎになっている花咲町のビルと言えば横山興産と関係がある。
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