都橋探偵事情『花虻』

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「ありがとうございます」 「ここ?」  マーロウが訊いた。 「はい一階の真ん中です。今度遊びに来てください。と言っても何のおもてなしも出来ませんけど」  ワッシーが話しているとドアが開いた。母親がドアの前でマーロウに一礼した。 「母です、身体が弱いので手間が掛かります」 「羨ましい、俺の母親は子供の頃に死んだ。俺なら負んぶして街を歩き回る。神輿みたいに担ぎ回ってやるさ」  マーロウがは母親に会釈して走り出した。04:00.本町興信所に向かった。戻ると事務の桜井がいた。 「マーロウさん」  桜井は緊張が解けてソファーに倒れ込んだ。 「桜井、大丈夫か?」  水を与えると溜息を吐いて気を取り直した。 「すいません、大変なことになっています」 「所長と橋本のこと、高畑のことはミッチから聞いた。それ以外に何かあるのか?」  真崎のことは知らないようだ。 「真崎が殺されました」  マーロウが回転椅子に腰を下ろした。立っていられなかった。 「さっきまで山手西署の刑事が来ていました。所長と真崎は二人で秘密裏に行動していましたので刑事から話を聞いたときには逆に驚きました」 「それはミッチから聞いた」 「それと助役も殺されたそうです、同一犯らしいです」  本来自分の役を真崎に交代した。殺されるのは自分だったかもしれない。だが真崎よりはずっと確率が下がる。真崎にすればぎりぎりの大役だっただろう。
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