都橋探偵事情『花虻』

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「俺の夢は医者だ、それが中学で兄貴と知り合って逆になった。最後に医者の格好して人殺しするなんてよ」  二人は緊急搬送口から侵入し裏動線に入る。スタッフ用エレベーターで集中治療室がある八階に上がる。    マーロウは八階ナースステーションでコールボタンを押した。怪訝な顔で出て来たナースに一礼した。 「片山智也は私の上司です。この事件で会社は危機で、その対応は一刻の猶予もありません。多くの社員とその家族が路頭に迷うことだけは避けたいのです。時間がありません。面会させていただけないでしょうか」  マーロウは名刺を出した。ナースはその前にと検温をした。スプレーをマーロウの身体に吹き付けた。 「この階は非常にデリケートです。手指の消毒をしてお待ちください」  しばらくするとナースが戻って来た。 「担当医は短ければいいと、ですがまだ話すことが出来るかどうか分かりません。待機されるなら一階のロビーにてお願いします」 「ありがとうございます」  ナースが迎えに来てマスクを二枚差し出した。 「これを重ねる?」  ナースが頷いた。靴の裏にもスプレーをする。 「これは何ですか?」  背負ったバットケースのことである。マーロウは下ろしてケースの中も消毒する。ドアを開けた。ナースは戻って行った。部屋には常夜灯のみで視界が慣れるまで何処に何があるのか分からない。 「元気そうじゃないか」  声の方を見るとベッドに横たわる林がずっと見ていた。 「先輩」  近寄り顔を見下ろした。暗さに視界が慣れると林の笑顔を確認出来た。
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