火事場のバカ

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火事場のバカ

火事場の馬鹿力 というように、咄嗟のことがあると、とんでもない力が出ることがありますよね。 私の場合、脳が誤作動を起こして、バカなことをしでかしてしまいます。 レジで働いた話を書いたら、バカなことをした記憶がよみがえりました。 私はスーパーで「品だし」としてアルバイトをしていました。 「品だし」とは、バックヤードに保管している商品を店頭に補充する作業です。 対人恐怖症がある私は、人となるべく接する必要がない早朝の品だしバイトを始めました。 なのに、人手が足りないからと、開店時間後も働くことになり、はたまたレジまでやることになったのは……、対人恐怖症には恐怖でしかありませんでした。 バカなことは、開店中のお客様がいる中、品だしをしているときに起こりました。 「○○どこにありますか」 よくされる質問。だけど、体にびくりと電撃が走り、鼓動が速くなり、顔がいっきに熱くなります。質問されると、毎回こうなってしまうのです。 そして、あのとき、そのパニックしかけた頭のまま振り向くと、お客様の風貌は外国の方でした。ブラジル系でした。 差別はしていけないことはわかっています。けど、日本人でも緊張するのに、見慣れない外国の方を目にした私は、どう対処すればよいのか必死に頭の中がめまぐるしく混乱しました。 そのとき、なにを思ったのか、私は思わず――、 “Yes, it's here” 日本語で質問されたのに、英語で返していました……。 しかも、相手の母国語はポルトガル語。ブラジル人には英語が通じないことはしばしばあります。 そのときは、指もさしたためわかってくれたのか、「ありがとう」とたどたどしい日本語で返してもらえました。 (なんであんなバカなことをしたんだろう) 緊張のあまり少し大きめの声で英語を叫んでしまった自分が無性に恥ずかしく、補充途中の豆腐を放り投げて帰りたくなりました。
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