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至福
銀杏の葉が色づき舞う季節になってきた。
色づく葉は
秋のやわらかな陽射しに金色のように輝き
地面も一面金色の絨毯で覆われ
上も下も美しい金色の世界に酔いしれる。まるでウイスキーボトルの中に入ったよう。
ああ。ウイスキー飲みたい、ビール飲みたい。グリーンフリーでは物足りない。
禁酒中の私は、色づく銀杏に、麦で造られた酒の色を重ねてしまう。
あの至福の色……
至福?
とても幸せそうな顔をした人が、その銀杏の下にいた。
あの人は今まさに至福の時を過ごしているのだろう。
本格的なカメラが金色の世界に向けて、三脚の上に置かれていた。
その美しい世界に彼女を立たせ、男はその彼女をより美しく引き立たせるために楽しそうにせわしなく動いていた。
カメラの位置を小刻みに変えたり
彼女の長いストレートヘアに櫛を入れたり
スカートのひだを整えたり
座らせたり立たせたり
小物を置いたり持たせたり
しばらく私の目が注がれたのは、その彼女が生きていないのに、生き生きとしているように見えたからだ。
動かぬ着せ替え人形玩具。
だけど、美しい世界で一番美しくなるように彼女の魅力が最大限に引き出されていて、彼女の目が輝いて見えた。
撮影を楽しんでいる男にほほえんでいるようにも見えた。
至福の時を男と彼女は過ごしていて、金色の世界の中で輝いていた。
人形を外で必死に撮影するなんて、と鼻で笑う人はいるかもしれない。
けど、溺愛する子供や犬をできるだけ良く撮りたいと思うのと、なにが違うのだろうか。
人形を撮る人を笑うなら、私は子供や犬を撮る人も笑うだろう。
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