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りんご
朝ドラ「エール」でリンゴが出てきたが、リンゴには苦い思い出がある。
それは、ある調理実習の前日に起こった。
その調理実習では、みんなリンゴを持ち寄って、どれだけ長く繋がったまま綺麗に剥けるか、ということをやることになっていた。
不器用で負けず嫌いの私は、前日に練習をした。
当然、一朝一夕で上達なんかするわけない。
けど、そんな当たり前のことは当時の私の頭にはなく、どうしてもリンゴを上から下までクルクルと途切れずに剥きたかった。
まずは、慎重に包丁をリンゴに入れてみる。
皮を薄くとりすぎて、すぐにプチンと途切れた。
今度は厚めにザクッと包丁を入れる。
深く入りすぎて、包丁が奥に入りこんでいきだす。
あわてて包丁の角度をあげて――、プチンと途切れた……。
そんな感じで、包丁はリンゴの体を出たり入ったりしながら突き進み、
親指程度の長さに剥かれた皮が散乱し、
でこぼこのリンゴが出来上がった。
この一つのリンゴを剥くのに一時間はかかっただろうか。
一時間も費やしてのこの結果はとても残念だった。
私はこの結果を受け入れられなかった。
不器用で包丁もろくに握ったことがないから当然の結果であるのに。
むきになって、新しいリンゴに手を伸ばして、剥きだす。
………………。
でこぼこのリンゴが、二つ、三つと増えていき、そして――、
「ねぇ、お母さん。リンゴ、どこにある?」
私は机の上にあったリンゴをすべて剥き、他のリンゴを求めて冷蔵庫をまさぐった。
「え。それで全部だけど……。え!?明日、学校に持っていく分ないじゃない!?」
「え……」
私に嫌な汗が流れた。時刻はもう十時。
「はぁ。しょうがないわね。明日の朝買いに行くわ」
と、いうことで、翌朝、私はリンゴを持たずに学校に向かった。
調理実習は何限目だったか覚えてないけど、午前中で、スーパーの開店時刻(十時)を待っていてはリンゴが間に合わない時間。
私はドキドキしながら母とリンゴを待った。
母とリンゴは調理実習が始まる数分前にやってきてくれた。
後に聞いた話だと、あの朝、母は周辺のコンビニを梯子したけどリンゴをみつけられず、閉まっている地元の商店の扉を叩き、なんとか買えたらしい。
けど、前日の努力と母の苦心もむなしく、私のリンゴ剥きの結果はさんざんだった……。
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