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買い物なんて行かなければ良かった。 湊は私が思うより凄く怒っていた。 私は家から出ない事を誓って、週末までアパートに置いてもらうよう湊に頼んだ。 直ぐに帰ってしまったら、まるで今までの事が演技だったみたいじゃないかと思ったからだった。 湊は渋々OKしてくれて、私はまた引きこもり生活になった。 そして今が金曜日の夜。 「あおいさ、元気になった?」 テキパキと洗い物をしながらこちらを見ずに話すという事は、私がずっと後ろ姿を見つめているのを分かっていたという事か。 なんて可愛い湊。 「なった。私、元気。」 「じゃあ明日、リハビリがてらご飯食べに行く?」 「行く!」 「よし、じゃあいっぱい食べような。」 「うん。」 洗い終わるのが待てなくて、背中にぴとっと「気をつけ」のままくっついた。 そういえば…食欲も出てきたら、あっちの欲も出てきたかも。 でも。別れ話の時あんな事言われたし。 気まずい… ぴとっとくっついていると、益々たまらない気持ちになってくる。 「湊さ…」 なんて言ったらいいんだろうか。 赤名リカにはなれないし…。 「何?」 あーダメださすがに言えない。 「何にもない。」 「何にもない。」 私の真似をしてくるから笑ってしまってそんな事言えない空気になってしまった。 ざんねん。 ーーーーーーー 翌日、来週からの仕事復帰にむけて皆さんへお詫びとお礼の品を配る為、食事の前に買い物へ出た。 久しぶりに街へ繰り出すと、もう全てにありがとうと言いたくなる。 ウキウキする私が嬉しいのか湊も嬉しそうに見つめてくるから、中々買い物にならなかった。笑 大好きな伊勢丹へ行くと、湊が足を止めた。 視線の先にはジュエリーショップ。 「あおい…こんなん俺絶対言いたくなかったけど、やっぱり指輪して欲しい。」 結婚指輪の話はしてくるけれど、湊は指輪やネックレスをプレゼントするのが苦手だという。 なんだか縛りつけているように感じるらしい。 変なとここだわるな… 「どうしたの?突然…。」 「うん…やっぱり魔除けいるわ、そこ。」 わたしの左手薬指を触ると、「買お」と手を引いてお店に入った。 高いから辞めるって言うかと思ったら、めちゃくちゃ買う気満々で見せてもらっている。 あんまり意識した事なかったけど、一人暮らしで車持って、って懐具合はいかがなものだろうか…。 「うーん…あんまり気になるのないかな…」 わざと店員さんに聞こえるように言って店を出た。 「私がお気に入りのお店があるんだけど、行ってもいい?」 私の提案に「何でもいいから早く買お。」とせかしてくる。 お手頃なお値段のがあったので、「コレが可愛い」と言うと、湊は直ぐに店員さんを呼んだ。 「これつけて帰ります。」 「えーっ。やだ。ここのケースが可愛いのに。」 「じゃ、ケースは別でください。」 「だからケースに入れて、欲しいの。」 「ケースなんてどうでもいいんだよ。早くつけろって。」 ムキーっとなった私は「じゃあいらない。」とむくれた。 「……ケースにいれてください。」 湊は直ぐに降参し、店員さんは天使だったようで、「可愛い彼女さんですね。」と湊を慰めてくれた。 湊も頭に輪っかがある人だったから 「あ、はい。」と直ぐに機嫌が直ってしまって、私はその光景にかなり引いてしまっていた。 「ほら、ケースなんかいらないじゃん。」 車の中で指輪をつけてもらった。 嬉しくてニヤニヤしちゃう。 「ケースから出して、つけて欲しかったの。」 私の言葉に「あ、なるほどね。」と妙な納得をしながら車を発信させた。
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