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石畳の創作居酒屋。 予約してあると、湊が名前を告げた。 「他のお連れ様はもういらっしゃってるんで、こちらどうぞー」 他に誰かいるなんて聞いてない。 店員さんの勘違いだろうと思いながらも本人が気付くまで言わないでおこうとそのまま案内されて、部屋を仕切っている大きな暖簾をあげられると、そこにいたのは私の親友の玲子と櫻井くんだった。 玲子は全て知っている唯一の人。 湊とは別れるしかないと話したのが最後、まだちゃんと話せてなかった。 「玲子…櫻井くんも…」 玲子は私を見るなり、眉間に皺をよせて難しい顔になった。 そんな玲子を櫻井くんが気にかけている。 「はじめまして、七瀬です。」 湊は櫻井くんに手を出して握手をした。 「櫻井です。あ、はじめてじゃないんすよ。覚えてないですか?」 その言葉を聞き終わるより前に「あ、あん時の。うわーマジですんませんでした。」と湊が笑った。 フォーラムで私が衣装にダダをこねた時に慰めてくれたのが櫻井くん。それを櫻井くんが私を泣かせていると勘違いした湊が殴りかかろうとした事件、というか、櫻井くんにいわせると少女漫画? 「玲子ちゃんの彼氏って…」 「ご縁があるようで。」 少し潔癖な玲子に、櫻井くんはどうかと紹介したのは私。 似たもの同士の2人は私のよき理解者だ。 ドリンクが来て、湊が私の前にリンゴジュースを置いた。 「じゃ、まずは、」 湊が乾杯しようとした時だった。 「あおい、ごめん」 ずっと黙っていた玲子が私に頭を下げた。 「佐々木、玲ちゃんずっとお前の事心配してたんだぞ。」 櫻井くんが横で項垂れる玲子の肩を掴んでこちらを見た。 「私が悪いんだから黙ってて。 あおい、本当にごめん。」 玲子は目に涙をいっぱい溜めながら、その涙をこぼすまいと言い終わると歯を食いしばった。 私はわけがわからず、呆気にとられていた。 そんな私の手を、湊はテーブルの下で包んでくれた。 「玲子、心配かけて本当にごめんね。もう大丈夫だから気にし…」 「じゃあなんでそんな死にそうな人みたいになってんの!」 玲子は堪えていた涙を一気に流して、私に叫んだ。 「玲ちゃん、声大きい。」 櫻井くんはもうビールを飲み出している。 「あおいがあの時、湊くんとの結婚の事相談に来た時、私なりに考えたつもりだった。 でも、間違ったよね私。 私が一番に味方になってあげなきゃいけなかったのに…」 言い終わると、立ち上がっていた玲子はストンと椅子に座った。 「玲子ちゃんがお母さんに言ってくれたんだって。このままだとあおいは死ぬって。治せるのは俺しかいないって。」 湊も既に左手で烏龍茶を飲みながらリラックスしているけど、右手は私の手をずっと握ってくれている。 「あおい、湊くんと駆け落ちしちゃえ。 籍だって、成人してるんだから好きに入れたらいいのよ。」 「玲子…。」 「とりあえず佐々木は腹に何かいれないとだな。」 櫻井くんがメニューを開いた。
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