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母が父に異常に気をつかう生活は私にとっても異常だった。
父は母のそんな態度に、年々独りよがりの気持ちが大きくなっていくのを近くで感じて、私はどんどん孤独感に苛まれていった。
「もちろん…愛情はいっぱいいただいたと思っているし、感謝してます。
でも3人とも違う所ばかり見て生活してしまっていたよね。」
「俺は俺なりにあおいを自分の子供だと思って育ててきたと胸張って言える。そんな事を言われるのは心外だな…。」
父の返答に少し胸が痛んだ。
「私はずっと苦しかった。パパとママの思い描く女の子と自分が違いすぎて。居場所がない気がしてた。だから外にばかり気持ちを向けた。そんな私が仕事して社会の波にもまれながら恋愛して、今、ずっと一緒にいたいって人に出会えたの。湊といると私らしくいれるし、私の人生に必要不可欠な人だってこの前の事で身に染みた。
湊と家族になりたいと思っているけど、それはパパ達を見捨てる事にはならないと思う。
お墓もきちんと守っていきます。」
話す途中で湊がテーブルの下で手を握ってきたのは分かっていた。
横の湊を見ると……めちゃくちゃ泣いていた。
笑うとこじゃないけど、少し気が緩んでしまった。早く涙拭いて欲しい…
「笑ってごめん、ママはどう思う?」
「ママはね…んー…」
母は言いたくても言えないからここまで来たのはわかる。
お菓子と抹茶を無事堪能した祖父が口を開いた。
「で、結局何を揉めてるんだ?」
ああ、それは…と、
経緯を説明した。
湊と結婚したいが、婿養子には私が出来ない、という事。
それなら湊とは別れて、他の人と結婚しろという両親の考え。
「じゃあ、あおいちゃんがこの家を出るしかないじゃないか。可哀想に…。」
祖父は椅子にもたれながら、淡々と言葉を話した。
「俺ばっかりが悪者か!
今まで必死にお前らの為に尽くしてきた俺はなんだったんだよ。」
父は肩を震わせながら怒りを露わにした。
「慶太、お前、成美さんと結婚したいって母さんと俺に頭下げた時なんていった?
成美さんと結婚出来ないならこの家を出て行く、そう言ったよな。
母さん、お前の見えない所でずっと泣いてたんだぞ。
でもそこまでお前が好きになったのなら私達は受け入れようと思ったんだ。
成美さんだって、今まで私達やお前によく尽くしてくれた。
あおいちゃんは全て知ってもこんなに堂々と私達に感謝してくれている。
生きてたらな、思い通りにいかない事もあれば、思わない幸せに辿りつく事もある。
そういうもんだ。人生なんてその瞬間を見て生きていくもんだよ。
先の事ばかり心配していたらつまらんよ。」
言い終わるなり、「じゃ、話がまとまったらまた連絡してね。」と祖父は立ち上がり、具合の悪い祖母の所へ帰っていった。
最後玄関で見送る私と湊に、祖父はノブにかけた手を止めて振り返った。
「湊くん、あおいちゃんは僕の大切な孫だから、泣かせたらその時はまた話が変わってくるよ。」
と悪戯っぽく笑って湊の腕を2回ポンポンとさわった。
「はい、一生をかけて守ります。」
横に立つ湊は堂々と大きな声でハッキリと言った。
祖父はそんな湊の姿を見て、
「よしっ、よく言った。」
と、私に小さく手を挙げて微笑んで帰っていったのだった。
私はこの宣言にすごく嬉しかったけれど、同時に、湊に先程の事含めて重い十字架を背負わせてしまったんじゃないかと思ってしまっていた。
普通なら楽しくて幸せでしかない結婚を私のせいでこんなめんどくさい事に巻き込んでしまった。
この時、私の中に得体の知れないオモリが落ちた。
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