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リビングに戻ると父は見当たらなくて、どこにいったのかと思っていた。
「湊くん、いくぞっ」
スーツから私服へ着替えた父が階段を降りてきた。
不安になり湊の顔を見ると、小さい声で「心配しないで。行ってくるよ。」と言いながら軽くハグしてくれた。
湊は父に拉致されて出かけてしまった。
玄関で二人を見送り、扉が閉まると「お寿司でもとりましょうか。」明るく言い、母は電話をかけにいった。
やっぱり湊に迷惑ばかりかけてしまっている。
これらの事全て私のわがままが招いてしまっているんじゃないかと、意識が遠くにいってしまいそうになっていた。
「そんな心配しなくてもちゃんと帰ってくるわよ。」
母はけろっとしながらリビングテーブルに座る私の前に紅茶を差し出した。
「体調は本当にもういいの?安心していいのね?」
レモンを紅茶に浮かべながら、母はもうくつろいだ表情をしている。
「湊がいないと、元気になれない…。」
駄々っ子のような事を口走ってしまった。
「まぁーっ。あおいちゃんがそんな事言うようになるなんて、ママ感動しちゃうわ。」
さっきも同じような事言ったんだけどな…
聞いてなかったのか?
能天気な母に、思わず気が緩みつつ腹も立つ。
紅茶に入れたレモンをスプーンでザクザクさして気持ちを発散させようにも、なんだか勝てる気がしないのだ。
「あら。またレモンそんな事しちゃって…だめよ。」
「いいの。私はコレが好きなの。」
「あなた昔からよくそう言ってたわね。」
母は紅茶のカップをゆっくりソーサーに置いた。
「本当って言い方もおかしいけど、父親に、会いたい?」
「…分からない。」
「そう…何があったか聞きたい?」
それから母はもう一人の父親について話し出した。
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