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「き、聞いて……たの?」
どこから?
いつからいたの?
ギュッ。
唇を噛みしめる。
「あらあら。わたしはお買い物にでも行って来ようかしら」
突然立ち上がり、母さんは思いついたかのようにそう言った。
「えっ?」
ちょっと?
どこに行くの?
「翔さんをお迎えに行きたいし、4時間は帰らないわ」
えっ?
母さん?
『じゃあね』とそう言って、母さんは心なしかスキップしながら買い物かごを手に取り、出て行った。
「えっ? ちょ、母さん? 待っ!!」
対する俺はどうしたらいいのかわからない。
母さんを追いかけるためにキッチンの入口に立つ律さんとすれ違う。
「楓!」
グイッ!
俺の腕が律さんに掴まれた。
「――っや!」
ああ、もう逃げられない。
俺は絶望に目をつむった。
「アンタは出て行かなくていいし。同性に恋するなんてさ。俺のこと、気持ち悪いでしょう?」
閉じた目頭が熱くなる。
どうしよう。
涙、出る。
唇はわなわなと震えて……。
「っひ……ごめ、なさ……。こんなつもり、なかったのに……ごめ、なさ……」
そしてとうとう泣いてしまうんだ。
涙が止まらない。
ポロポロ、ポロポロ。
目から大粒の雫がひっきりなしに零れ落ちる。
ポタ、ポタ。
床を濡らしていく……。
そしたら、ふいに俺の体が包まれた。
「そうか、そうなんだ。うん」
「ふぇ……」
俺、なんで抱きしめられてるの?
泣いてるから慰めてくれてるの?
同情なんていらない。
悲しくなるだけだから。
……でも。
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