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冬隣
「膝が曲がってきましたよ。つま先から着地させて。」
「はい。」
「もう一度、壁に背中を付けて、姿勢を確認してから歩き始めましょう。ゆっくりでいいので、足の運び方に気を配って歩いてみて下さい。」
「はい。」
ハイヒールを履いたことがあるかと問われて、以前は履いていました、と答えた未来は足下に置かれた華奢な靴を見て、目が点になってしまった。
これはピンヒールという類の物ではないのか、と思い先生の顔を見た。
「あなたが履いていらしたのはパンプスですね。」
ときっちりとしたお団子ヘアの年齢不詳の先生は、
にこやかに仰った。
責任を持つ、と言った青島からマナースクールに行ってみるか?と聞かれた未来は、喜んで受けることにした。
午後から青島の会社である『フォアフロント企画』で打ち合わせがある日に、ついでだからと言って、午前中に予約を入れてくれた。
ところが着くなり、かなりのナチュラルメイクですね、とAIのような笑顔の女性に言われてしまい、ヘアメイクから直されてしまった。
とは言っても、ヘアスタイルはウォーキングの先生と同じお団子ヘア。
目つきが変わるほど、きっちりとまとめ上げられると、姿勢まで良くなり気が引き締まる思いだった。
得てして女性を見る目が厳しいのは、男性ではなく女性だ。
美意識が高い生業の女性たちの指導を受けられたのは、大いなる反省と刺激を与えてくれた。
忘年会は立食スタイルということだったが、ランチはテーブルマナーを兼ねたコース料理で、大満足でスクールを後にした。
歩き方を学んだところで、慣れなければどうしようもない。
当日、身につける物は、青島の方で用意すると言われたが、靴だけは先に自分で用意したいな、などと思いながら会社に向かった。
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