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今僕と幸太郎は、ショッピングモールに来ている。
幸太郎とは高校は別れてしまったけど、小さい頃からの仲のいい幼馴染で、どんくさい僕の面倒をみてくれている。
あんなに楽しみにしていた高校生活だったはずなのに、最近の僕の落ち込みようを心配して、ショッピングモールでもぶらぶらしようぜって誘ってくれたんだ。
ダメな幼馴染でごめんね。幸太郎。
「でさ、うちの姉ちゃんがまーた男にふられたって寝てる俺の耳元で元彼の悪口大会。一晩中だぜ?睡眠学習かっつーの。もてない姉ちゃんを持つと弟は苦労するぜ」
やれやれといった風に肩をすくめて見せる。
「幸さん大丈夫なの?僕のことなんかいいから幸さんについててあげて?」
「いやいやいやいや、あの幸姉だぜ?ふられても悲しいとかじゃなくて、どちらかといえば相手に見る目がないって怒ってたな。それに、朝にはけろっとして合コンセッティングするってはりきってたから大丈夫だ。次こそは自分だけの王子様をみつけるんだと。ったく王子様ってガラかよ」
「そうなんだぁ。落ち込んでなくてよかったぁ」
「やーっと笑ったな」
「え、あ、僕―――」
幸太郎は優しく微笑みながら僕の頭を撫でてくれた。
「フゥが元気ないと俺もつれーんだわ。フゥは笑ってるのが一番だから。いつも笑ってろよ。な」
「あり、がと」
幸太郎は、本当にほんとうにいい幼馴染だ。
僕にはもったいないくらい。
「―――どうした、の?」
幸太郎の視線が僕の背後に向かっているのに気づいた。
「いや……、あいつらフゥの知り合い、か?」
「?」
僕が振り向くとこちらを凝視している太陽くんと太陽くんに腕を絡ませている『北風さん』がいた。
全身から温度が無くなっていく気がした。
せっかく幸太郎が励ましてくれたのに、また心が凍り付く。
悲しくて切なくて苦しくて震える僕を幸太郎が抱き込んだ。
「大丈夫か?」
「う、ん……」
僕は幸太郎に抱きこまれ、なんとか立つ事ができていた。
「隣りのクラスの南君だよね。ねぇきみたちもデート?よかったらダブルデートでもしない?」
『北風さん』の声だった。何で僕の名前知ってるんだろう・・・。
僕はこれ以上二人を見ている事ができなくて、幸太郎の胸に顔を押し付けた。
幸太郎は小さな子どもをあやすようにぽんぽんと優しく背中を撫でてくれた。
「わりーけど、フゥちょっと具合悪いんで、また今度」
ぺこりと幸太郎が頭を下げるのを感じた。
「フゥ、行くぞ。歩けるか?」
「う、ん」
僕は幸太郎に支えられ、震える足でなんとか二人から離れようと歩き出した。
「―――――まっ!」
いきなり腕を掴まれた。
「いたっ」
「あ、ごめっ……!」
太陽くんだった。
「おい。その手を離せ。フゥにひどいことするっていうなら俺が許さねーぞ」
低いひくい声だった。
幼馴染のそんな声を聞くのは初めてで、身体中に緊張が走る。
「こう、たろ……」
「フゥ、大丈夫だから。俺がお前を守るから。『太陽さん』なんかやめて俺にしとけよ」
――――!
俺は固まった。
止めて!言わないで!太陽くんの前で『太陽さん』の事言わないで!
恐る恐る太陽くんを見ると、太陽の顔が驚愕に染まっていた。
「……………っ」
太陽くんの唇が小さく震えながら開いては閉じ、開いては閉じ。言葉が出ないようだった。
驚くよね。太陽くんの『北風さん』はそこにいる人だもの。
こんな僕が『北風さん』じゃダメなんだ。
僕は下唇をきゅっと噛むと無我夢中で走りだしていた。
「フゥ!」
遠くで僕を呼ぶ幸太郎の声が聞こえた。
ごめん。幸太郎、今は無理なんだ。その場所にいられないんだ。
あとでちゃんと謝るから、だから、今はごめん。
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