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『文通』 おじいちゃんやおばあちゃんが若い時代に流行っていた、らしい。 小さい頃からおじいちゃんとおばあちゃんに文通から恋が始まって一緒になったって耳にタコができるくらい聞かされた。 寡黙なおじいちゃんだったけど、何通も何通も愛情溢れる手紙が送られてきたんだって。おじいちゃんはもう亡くなってしまったけど、おばあちゃんはおじいちゃんから送られた沢山の手紙を今も大事にとってあって、時々眺めてる。 おじいちゃんがいなくて寂しいんだろうけど、手紙を読んでいる時のおばあちゃんは嬉しそうで、僕は『文通』というものに憧れを持っていたんだ。 僕もいつか誰かと文通を通して素敵な恋をしてみたい。 そう思っていたら小学校の行事で遠く離れた誰かと文通しようって試みがあって、風船に手紙を付けて飛ばしたんだ。 一週間が過ぎ、返事が来た人もいれば来なかった人もいて、僕にも返事が来なくてがっかりしてたんだ。 おばあちゃんたちみたいに恋ができなくても友だちでもよかったから文通したかったなぁ……。 だけど、家に帰ったらポストに入ってたんだ。 『太陽さん』からの手紙が。 住所は書いてあったけど、宛名が『北風さん』で、風に運ばれた僕の手紙には僕の名前が書いてなくて、どうせなら本名じゃなくて『北風さん』と『太陽さん』でやりとりしないかっていうものだった。 飛ばした手紙に名前を書き忘れていた事に、そこで初めて気がついた。 それなら太陽さんが言うように太陽さんと北風さんで文通するのもおもしろいかもしれない。 太陽さんの提案に僕はわくわくするのを抑えられなかった。 そして太陽さんと僕、北風さんの文通が始まったんだ。
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