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僕は落ち込むといつも来てしまう公園で一人。
ブランコを静かにこいでいた。
奥まったとこにあるさびれた公園で滅多に人も通らない。
聞こえてくるのは、ブランコをこぐきーきーという小さな音のみ。
周りの静寂に自身の心も段々落ち着いていくのを感じた。
泣きすぎた涙は枯れ、全身に疲労感だけが残った。
もう太陽くんの顔見れないや…。
僕の手紙取ってあるって言ってたけど、捨てられちゃうのかな…。
僕が『北風さん』だってわかって嬉しそうじゃなかったもんね。
幸太郎にも悪いことしちゃった。
いつも僕のこと心配してくれて、あんなことまで言わせちゃったのに、置いてきちゃった…。
いっぱいいっぱい謝らなきゃ…。
きーきー。きーきー。
『北風さんへ。お元気ですか?俺は元気です。無事同じ高校に入学することができました』
「―――――え…?」
太陽くんが立っていた。
『俺の勘違いで北風さんを悲しませてしまいましたね。本当にごめんなさい』
僕はぶんぶんと首を左右に勢いよく振った。
太陽さんだ。僕の太陽さんが目の前にいる。
『俺は北風さんに会える事を本当にほんとうに楽しみにしていました。俺は南くんが北風さんで嬉しかったです。北風さんは俺が太陽で…がっかりしてしまいました、か……?』
再び僕は首を振る。
枯れたと思っていた涙が零れる。
「北風さん、いや、南くん。俺は南くんのことが好きだよ。すぐわかるはずとか言って間違えてしまったけど……許してくれる……?」
不安気な様子でそう問いかける太陽くん。
僕は今度はこくこくと何度も頷いた。
「よかった……」
太陽くんがふわりと笑った。
僕も……僕もちゃんと気持ち伝えなきゃ…。
『Dear 太陽さん。僕も元気です。同じ高校に通えて嬉しいです。僕もずっとずっと会いたいと思っていました。すれ違ってしまったけど…僕も勇気が出せなくてごめんなさい。僕は太陽くんが僕の太陽さんで本当に嬉しいです。大好き……です』
「南くん……キミに触れても、いい?」
そう言うと返事も待たずに僕を抱きしめた。
頬が赤くなるのがわかった。
「他の男に触らせないで……」
と、耳元で囁かれた声は震えていた。
「幸太郎―――のこと?」
「うん。俺以外が南くんを抱きしめるとか――無理」
「こ、幸太郎はただの幼馴染でっ………!」
首にちりっと痛みが走った。
強く吸われたのだとわかった。
頬だけでなく全身が赤く染まった気がした。
身体中が熱い。
「――――うん…。もうしない」
「ありがとう。南くん、好きだよ」
ちゅっと温かいものが頬に触れた。
「ひゃっ」
「―――嫌…?」
「―――――いや、じゃ、ない」
ふっと笑うのがわかった。耳にかかる息がくすぐったい。
「もっと……しても、いい?」
「う、ん……」
ちゅっちゅっと繰り返される軽く唇に触れるだけのキス。
夢みたいだ。
嬉しくて涙が零れた。
僕と太陽くんは手紙では伝えきれなかった想いを伝えあい、笑い合い、抱きしめ合った。
『Dear おばあちゃん、おじいちゃん。
僕も二人に負けないくらい素敵な恋ができたよ。
これからもずーっとずーっと仲良くするから見守っててね。
From 風太』
-終-
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