Side 太陽

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Side 太陽

呆然と見送る太陽(たかひろ)と幸太郎。そして+1。 今日はせっかくのお休みだしどこか遊びに行きたいと北風さんに言われてショッピングモールに来ていた。 俺は入学式の前に出逢った南くんのことが気になって仕方がなかった。 どちらかといえば俺の中の『北風さん』のイメージにぴったりなのは南くんの方。 隣りのクラスだしあの日以来しゃべったことはないけれど、見かける度につい目で追ってしまっていた。 「ねぇ、あれって南君じゃない?一緒にいる子恰好いいー!あ、抱きしめた。えー付き合ってるのかな?」 「え……?」 北風さんの視線の先を見ると南くんが男に抱きこまれていた。 ざわざわイライラもやもやと自分でも制御できない負の感情が渦巻く。 「隣りのクラスの南君だよね。ねぇきみたちもデート?よかったらダブルデートでもしない?」 俺はそんなのは嫌だと思った。 南くんに俺たちがデートしてるって思われたくなかったし、南くんたちが一緒にいるところを見たくはなかった。 北風さんの提案に男は眉を顰め、南くんは男の胸に顔を寄せ背中を撫でられていた。 「わりーけど、フゥちょっと具合が悪いんで、また今度」 ぺこりと男は頭を下げ、南くんを支えて歩き出した。 親し気な二人の様子にイライラが募る。 「―――まっ!」 待って! 俺は無意識に南くんの腕を掴んでいた。 「いたっ」 「あ、ごめっ……!」 傷つけたいわけじゃなかった。 ただ俺から離れていってほしくなかった。 ただそれだけだった。 この手は離したくない。 「おい。その手を離せ。フゥにひどいことするっていうなら俺が許さねーぞ」 地を這うような低い声だった。 辺りに緊張が走る。 「こう、たろ……」 ―――――え? 小さなちいさな声だった。 「フゥ、大丈夫だから。俺がお前を守るから。『太陽さん』なんかやめて俺にしとけよ」 俺は固まってしまった。 幸太郎と呼ばれる男は、『太陽さん』と言った。 やっぱり……やっぱり南くんが―――『北風さん』? 俺は何をどう言葉にしていいかわからずただ口の開閉を繰り返すしかできなかった。 「………っ」 「フゥ!」 俺たちを残し南くん、『北風さん』は走り出していた。 追いかけようとする俺の腕は掴まれ、追いかける事ができない。 「なんで?なんで追いかけるのさ。『北風さん』は僕でしょう?」 「ちがう……!俺の『北風さん』は南くんだっ!」 数秒睨み合った後、掴んだ手を離された。 「あーあ、もういいよ。あの日さ、僕廊下で手紙拾ってさ、中見たら『太陽さん』とか『北風さん』とかもうくっそ甘い内容が書かれててさ、うわーって思ってたら太陽が僕の事『北風さん』って呼ぶもんだから、僕もあんな手紙に書いてあるような甘い恋愛ができるのかなって思って、つい『北風さん』のフリしちゃった。悪かったとは思うけど、謝らないよ?太陽ぜんぜん甘くないし、話しててもぜんぜん面白くないし、キスもさせてくれない。だからもういいや」 強がった台詞を言っているけど、少し涙目で。 俺が勝手に勘違いしたせいで傷つけてしまった。 「ごめん。今までありがとう。俺は俺の『北風さん』のところに行かなきゃ」 「お前……。『太陽さん』なの、か?」 今まで黙って傍観していた幸太郎だった。 俺は幸太郎の目をまっすぐに見てこくりと頷いた。 「はぁ……なんかわかんねーけど、すれ違ってただけか…。俺はさ、フゥの笑顔が一番だから、フゥが笑っていてくれるなら俺じゃなくてもいいんだわ。『太陽さん』今度こそ、間違えるなよ」 「もう間違えない。俺の『北風さん』は南くんだけだから」 俺は幸太郎に教えてもらった北風さん、南くんの行ってそうな場所に急いだ。 残された二人は―――――。 「あーあ…行っちゃった……」 偽『北風さん』こと工藤嵐(くどうらん)はぽつりと呟きため息をついた。 そんな嵐を見て幸太郎は苦笑いを浮かべる。 「まぁ友だちとしてなら俺が遊んでやるぜ?」 「本当っ?」 途端にぱぁっと明るい顔になる嵐。さっきまで泣きそうだったのに変わり身が早い。 幸姉さんの顔がふっと思い浮かんだ。 あーそうか。何かほっとけないって思ったら幸姉に似てるんだな。 こいつとの付き合いも長いものになりそうだ、と予感めいたものを感じながら幸太郎は声を上げて笑った。 Side 太陽 -終-
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