1.結ばれた気持ちと身体

1/1
前へ
/8ページ
次へ

1.結ばれた気持ちと身体

秋に出会った二人が結ばれたのは、寒い冬を経てようやく春らしくなった頃。 それでもその日はまだコートが手放せない日だった。 出張後、千広は冷たくなっていた手を擦りながら駅の改札前で凛を待っていた。凛と会うのは二ヶ月ぶりだ。二人が正式に「恋人」となって会えたのは数える程しかない。遠距離恋愛にあることは覚悟していたし、電話やメール、たまには顔を見ながらの電話もしているから距離は感じないが、やっぱり直接会えるとなると嬉しくてたまらない。 数分待っていると、手を振りながら凛が駆け寄って来る。凛もまた寒かったのだろう、鼻の上が真っ赤になっている。それを告げると凛は慌てて鼻を隠した。 そのまま、駅前近くのファミレスへと移動して夕食を、一緒に食べる。ちょうど出来あがっていた新曲の楽譜を渡すと凛はハンバーグを切る手を止めて楽譜を眺めていた。 「凛、先に食べようよ」 楽譜を前にすると凛は途端に演者の顔つきになる。本当にピアノが好きなんだなあと千広は感じた。だが、好きなことに夢中になると、食事の手が止まるなんて、まだまだ子供だなと笑った。 食事後、近況を話しているうちに二十一時過ぎとなっていた。 「そろそろ出ようか」 門限の二十二時までには送り届けるつもりだった千広。まだ三十分あるし、ここから寮は近いから千広さんが止まってるビジネスホテルに行こうよと凛が提案してきた。千広は自制が効かなくなりそうだと思って断ったが、こういう時の凛はとにかく頑固なのだ。容赦無くなんでなんでと聞いてくるので、とうとう根負けして三十分だけだぞ、と言いながら部屋へ二人向かった。 ドアを開けて、カードキーで照明をつける。コートを脱いでハンガーに掛けた途端、先に部屋に入った凛がクルリと千広の方を向いた。そしてにっこりと微笑むと、大きく手を開いて千広に抱きついてきた。 「千広さーん! 会いたかった!」 そう言いながらスリスリと千広の方に頬を擦る凛。恋人同士になってから、凛は隠すことなく甘えてくる。熱烈な歓迎を受けて、千広が赤くなる。 「相当な甘えん坊なんだな、凛は」 「だって二か月ぶりに会うんだもん。千広さんは寂しくなかったの?」 そう言われて、ウッと答えに詰まる千広。大好きな凛に会えなくて寂しくない訳がない。答えの代わりに凛をギュッと抱きしめると、凛は嬉しそうに微笑んで顎を上げて、目を瞑る。それはキスをねだる仕草だ。千広はおねだりする凛の唇にそっとキスをした。触れ合う軽いキスを何度も繰り返しているうちに、凛が舌で千広のかさついた唇を舐める。それはもっと深いキスが欲しいという合図。やがて二人の濃厚なキスの音が部屋に響く。と同時に凛が千広の背広を脱がそうとしたので千広は慌てて身を離す。 「凛、なんで脱がそうとするの」 「やっぱり我慢できないよ、千広さん」 そう言いながら千広の隙をついて背広を脱がした。千広が思っていたのと同様に、凛もまた千広に触れたいと思っていた。ただ、自制をしようとしていた千広とは真逆に、凛は決行しようとしていた。それは千広の出張が決まり、夕飯を一緒にしようと連絡が来た日から決めていた。 (だって会える回数が少ないんだもん。会えるときは触れたいじゃん) そう思いながら凛は計画的に千広の部屋に来たのだ。 「ダメだって。まだ早いって言ってるだろ」 「何言ってんの、俺もう高校生なんだけど。市瀬なんかもう週一ヤってるよ」 「よ、よそはよそ! 俺らは俺ら……」 さらに体を離そうとする千広の腰を、凛は逃すものかと掴んで自分の方へと引き寄せる。年下の恋人に迫られて、逆じゃないのか、と千広が思っているとふいに下半身に当たるものを感じた。 「……勃ってる?」 「あったりまえじゃん、二ヶ月ぶりに会ってあんなキスして、ここホテルなんだよ。勃たないわけないじゃんか」 こんなに凛は欲望に素直な子だったっけ、と千広が感心しているともう一度、凛からキスをされた。そして少しだけ赤くなった顔で凛がもう一度呟いた。 「お願いだから」 結局、千広が折れて凛はガッツポーズをとった。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

120人が本棚に入れています
本棚に追加