1.結ばれた気持ちと身体

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1.結ばれた気持ちと身体

「ん……」 ベッドの中で寝返りを打とうとした時、何かが身体に当たって千広は瞼をこすりながらそれが何かを確かめようと振り向いた。目の前にあったのは、凛の顔だ。 (え、ええっ) 一瞬状況が分からなくて、声を荒げそうになったがなんとか思い留まった。一気に目が覚めて凛のスヤスヤと眠る寝顔を見た。心臓の音がうるさく聞こえる。何だ、どうした、と考えているうちに昨夜のことを思い出した。凛に迫られて、そのまま、結ばれたこと。 なにより驚いたのはてっきり年上の自分がリードしなければ、と思っていたのにあれよあれよと言う間に主導権を凛に取られた。可愛いと思っていた凛がまるで獲物を狙う豹のように妖艶な動きをしながら自分を攻めていく姿に、千広はもう抗えなかった。そして凛は何度も最中に、千広を愛おしそうに呼んでくれた。隣で眠っている凛の顔をまじまじと見る。今までも愛おしいと思っていたけど、これまで以上に愛おしさが募る。 (あー、このまま離れて生活できるかなあ) 千広が触れ合うのを拒んでいた理由。凛の年齢が若すぎるとか、そんなのは建前だった。一度触れてしまったら、離れるのが辛くなる。もっと触れたくなる。そうなることを千広は恐れていた。どう考えても今の状況では一緒にいることなどできないのだ。若い凛はそんなことはきっと思わない。今が幸せならそれでいいじゃないかと、思うのだろう。千広は凛を起こさないようにそっとベッドから身体を起こして洗面台へと向かった。 翌朝。一緒にホテルから出て駅まで千広と歩く凛。少しだけツラそうな凛に千広は罪悪感を感じていると凛が気にしないで!と笑っていた。 「帰ったら市瀬に色々聞かれるだろうなー、朝帰りなんて」 「……よ、よろしく伝えといてね」 昨夜は念の為、寮生でもある市瀬に帰らないからと連絡を凛が入れていた。たまに抜き打ちで点検されることがあるのだと言う。ヤバいんじゃないのか、と千広が問うと今まで市瀬の為に色々手を打ってやったんだから、今度は使ってやるんだと凛が言っていた。 (最近の高校生は乱れてんなあ) そう一瞬思ったが、その高校生に手を出してしまった自分が偉そうに言えないと気づいた。 「それじゃあ、千広さん。また連絡するね」 改札口について凛が少し寂しそうな顔を見せる。千広も胸が痛む。ほら、一旦繋がってしまったから別れるのがしんどくなったじゃないか、と心の中の自分に語りかける。 「凛、身体に気をつけて」 「うん」 千広は名残惜しそうな顔を見せながら、改札を抜けてホームへと向かう。人混みに紛れてあっという間に千広の姿が見えなくなる。 凛は一つため息をつくと冷えた手に息を吹きかけて温める。早朝まで横にいたのに。この腰の痛みだって昨日の名残なのに。 (あ、そうだ……あのこと、相談するの忘れてた……まあ、メールでいいか) 千広が消えていった改札口を見つめながら、凛はその場に立ち尽くしていた。
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