第14話神話の森最深部 GORIRA

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第14話神話の森最深部 GORIRA

「ボァァアアッ!!」 「クルァァアアッ!!」 「おーおー、やってんねぇ」 朝っぱらから猪と鹿がケンカしてる。っていうか、こいつらいつも争ってないか? 夜は静かだから流石に寝てるんだろうけど、陽が昇って沈むまでずっと轟音が響いてるしな・・・ 「まぁ。近付かない限りは大丈夫だし、それに・・・おりゃっ!」 「ピギャッ!?」 「こういう美味しい思いも出来てるしな」 ボクは吹き飛んできたモグラ型の魔物に止めを刺し、指輪に収納し一人ゴチる。 コイツは普段地中深くに潜ってるんだけど、運悪く鹿と猪の争いに巻き込まれたみたいだ。あいつら豆腐のように地面抉るから、地面に潜っていようがいまいが関係ないんだよね。 ボクとしては、すごいありがたいんだけどね。だってこのモグラ滅多に地中から出てこないから、なかなか食べる機会がない貴重な肉だったりする。 「今日の飯はモグラか。煮込んでみるか・・・うへへ。楽しみだな」 このモグラ、めちゃくちゃ美味い。そして焼いただけなのに煮込んだ熊肉並に柔らかい。 ずっと地中にいるから柔らかいのかな?分からんけど。 こんな感じで色んな魔物が、鹿と猪のとばっちりを受けて吹き飛ばされてくる。今日みたいに珍しい魔物が吹っ飛んでくることがあるから、実は毎日何が飛んでくるか楽しみにしてたりもする。 「それにしても今日は激しいな」 この二匹の争いは、基本的にお互いに突進し合う力比べなんだけど。今日はその衝突音が、いつもに比べてとても激しい。今日で勝負をつける気なのかな? 「ちょっと様子見に行くか」 「・・・うわぁ。これは酷い」 見える範囲一帯が、まるで土砂災害が起きたみたいな惨状になってる。この惨状の原因の二匹は、現在進行形で突進し合いながら小競り合いしてる。 「こりゃ、決着つけるまでやる気だな」 二匹とも動けるのがおかしいくらいボロボロだ。牙や角は折れ、至る所から血が噴き出している。正直いつ死んでもおかしくないくらいだ。 それでもね。今この二匹に挑んでも、全く勝てる気がしないんだけど・・・どんだけ強いのよ。 「ボアッ!?」 「クルァッ!!」 「・・・おっ?」 どうした?二匹ともいきなり止まったぞ?進行方向の先をジーっと見詰めてるけど・・・ 何だろう。獣の表情なんて分からないけど、それ以上踏み込んではいけないっていう感じは伝わってくるな。 「あっ、帰っていく」 数分程、森の奥を見つめていた二匹は、静かに一礼するとそれぞれ反対方向に去っていった。 えっ、何それ?何なのそれ!そんなんされたらめっちゃ気になるじゃん!? ボクは、鹿と猪がそれ以上進まなかった森の奥を見る。・・・特に強い気配があるわけでもないし、普通の森だなぁ。あの二匹が、あんなに気にしてた理由がサッパリ分からん。 うーん。気になる。すんごい気になる・・・ 「行くか!ヤバそうだったら即逃げよう」 興味心って、人間の罪深い欲望の一つだよね。抑えようと思っても抑えきれないや。気になったら調べずにはいられない・・・ボクの悪い癖ですね。 あっ。そういえば、隣国の聖女様が褒めてくれてたなぁ。「シルスナ様のそういう所は美点でもあり欠点ですね」って、あれ?今思うと貶められてる?・・・まさかね。聖女様がそんな・・・ね。そうだよね? 「うわぁ、これはまた・・」 森を進んでいくと、とても神々しい樹が生えている開けた場所に辿り着いた。ボクはその樹のあまりの神々しさに、感嘆の声を上げる。 でもボクが感嘆の声を上げたのは、樹だけじゃないんだよなぁ・・・ 「ゴリラ・・・だよな?」 神々しい樹の根元に、これまた神々しい白銀のゴリラが鎮座していた。・・・強さが全くわからん。隠してるとかじゃなくて、次元が違い過ぎて感じ取れないって言ったほうが正しいのかな? 何よりどこか浮世離れした気配をしてて、他の魔物とは明らかに一線を画してるのが分かる。つまり激ヤバってことだよね。 「逃げれ・・・ないよなぁ」 そして何が不味いってさ。ゴリラとばっちり目が合ってるんだよね。しかも手招きしてるし、こりゃこっちに来いってことだよなぁ。あのゴリラ、知性があんのかな・・・何にせよ。逃げるのが一番まずい気がする。 「行くしかないか」 ボクは腹を括って、ゴリラの前に行く。 「ウホッ?」 例の神々しいゴリラは、首を傾げながらボクを見定めるように見詰める。うーん。何か心の奥底まで見透かされてるような気分になるな。 っていうか、ウホッってなんだよ。ウホッって。 「ウホッ!ウホッ!」 「えっ?着いてこいってこと?」 ボクの見定めが終わったのか、ゴリラは移動を始める。そしてやっぱり手招きするゴリラ。ゴリラが何考えてるか分からないけど、大人しくついていくしかないか。 「ここは・・・リング?」 「ウホッ!ウホッ!」 辿り着いたのは、四方を蔦で囲ったリングのような場所だった。これ、あのゴリラが作ったのか・・・?でも、何の為に? 「ウホッ!ウホッ!」 「・・・あぁ、そういうことね」 リングの中でウッキウキでファインディングポーズを取るゴリラ。その軽快なフットワークはボクサーそのものだ。 そして、それを見てボクは理解した。要はここで戦えってことね。 全然っ、勝てる気がしないんだけど!でも逃げれる自信もないな・・・やるしか選択肢がないのか。 「やったらぁ・・・」 「・・・」 「っっつ!!?」 剣を抜こうとした瞬間、ボクはとてつもない悪寒に襲われ身体を硬直させる。 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい 剣を抜こうとしたら、一瞬ゴリラがつまらなさそうな目をした。ボクの本能が激しく警鐘を鳴らす。あのゴリラの機嫌を損ねないほうが良いと。機嫌を損ねた瞬間、死ぬと。 多分だけど、あのゴリラは素手で戦うことを望んでる。でも、剣使っても勝てる気がしないのに・・・素手で?いや、やれるわけがない。 「・・・」 「・・・くっ」 ゴリラはまた見定めるかのような目で、ボクをジッと見詰めてる。・・・試されてるな。そして、ボクには選択肢がないなこれは。 恐らくあのゴリラは、そんなに長くは待ってくれない。大量の冷や汗を掻きつつ、ボクが出した決断は・・・ 「クソがっ!やってやらぁコンチクショウ!!」 「ウホッ♪」 ボクは剣を投げ捨てて両拳を構える。ボクのこの行動に、どうやらゴリラもご満悦のようだ。つまらなそうな表情から一転、花が咲いたかのような笑顔を浮かべてる。 さて、問題はここからだぞシルスナ!まだ数分寿命が延びただけだ。ここからどうする? 「ウホホッ!」 「・・・えっ?」 ゴリラが目の前に来たと思った瞬間、ボクの視界は暗転する。 あぁ、聖女様が言ってた意味が今頃になって分かったわ・・・あれ、褒めてないわ・・・
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