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第25話いざ実食!
「女将さん、ありがとうっ!」
「いえいえ、こちらにもお肉を分けて貰ったしね。これくらいお安い御用だよ」
「クルッ」
「ボァッ」
「あらあら、エイスちゃんもボーズちゃんも楽しみに待っててね」
俺らが間違えて狩ってきたキングサヴァナラビットは、なんと幻とも言われるほど個数の少ない魔物だったらしい。
何でも草原のヒエラルキーの最底辺にいるサヴァナラビットが、数十年生き残ることによりキングサヴァナラビットへと進化するとかなんとか。
最底辺のあの兎が数十年も生き延びるのはかなり難しいらしく、直近でもキングサヴァナラビットの肉が出回ったのは十年振りとのことだ。
肝心の味だが・・・めちゃくちゃ美味いらしい。
ギルドの受付嬢さんが、すごい執拗に買い取ろうとしてたくらいだからな。
肉全部金貨三十枚で買い取るって言われた時はビックリしたよ。まっ、売らなかったけど。
「あぁ、楽しみだなぁ・・・」
だって別に金に困ってないし、そんな貴重な肉なら自分たちで食べた方がお得じゃん。
あっ、ちなみに狼の方は普通らしい。そのまま食べるには硬いから、煮込むのがベストとか言ってたな。
硬い肉は硬い肉で、噛み応えがあって好きなんだけどなぁ。あの噛めば噛む味が出て来るのも、個人的に好きだ。
もちろん、柔らかい肉も好きなんだけどね。詰まる所、肉は何でも好きだわ。
「エイスちゃん、これ食べるかい?」
「ボーズちゃん、これ美味しいよ」
「エイスちゃんボーズちゃんおいでー」
今日もエイスとボーズは、宿泊客のみんなに大人気だ。
二匹も満更じゃない様子で、お客さんに撫でられつつご飯を分けてもらっている。
「良きかな良きかな」
俺はその様子を見て満足する。
怖がられるよりかは、可愛がられる方がよっぽど良いよな。特にエイスとボーズは、初めて森から出てるわけだし。
出来れば人間を好きになってほしいしな。
「あれっ?フルーツがない・・・食べたっけな・・・?」
「ウホッ」
「今何か言った?あら、私のデザートも・・・?」
「ウホホッ」
ただあのゴリラは、後でシバくわ。
さっきからゴリラが籠手からゴリラに戻っては、お客さんの料理(主に甘味)を盗って籠手に戻るを繰り返している。
そのスピードが恐ろしく速いから、俺以外は気付いていないし、料理を盗られたお客さんも不思議そうな顔をしてる。
「・・・お前、良い加減にしとけよ」
一応籠手状態のゴリラに注意するが、籠手状態のゴリラは返事しないし、甘味を食べてるゴリラの彫刻があるだけだ。
多分だけど、こいつ絶対に反省してないな。
「後でスィーツの店に連れてってやるから・・・辞めとけ」
籠手の彫刻のゴリラが、ガッツポーズしてる。
お前、ちゃんと意思疎通できるやんけ!くそっ、何か納得できないけど、これでお客さんの料理強奪は辞めさせることが出来たから良しとしよう。
「お待たせ!キングサヴァナラビットのローストとシチューだよっ!」
「待ってましたぁっ!」
キタキタキタァー!待ってましたよ女将さぁーんっ!
「たんと召し上がり。さて、こっちがエイスちゃんとボーズちゃんの分だよ」
「クルゥッ♪」
「ボァッ♪」
「うわぁ・・・すっげぇ、良い匂いがする」
シチューから漂ってくる芳醇な香りと、ローストから溢れてでる肉汁に食欲が激しく刺激される。
エイスとボーズも同じようで、尻尾を激しく振ってるわ。
くぅ~、これはたまらん!ローストから行くか!
「それでは、頂きます!・・・う、うめぇっ!!」
「クルッ!?クルゥッ!!?」
「ボァァァッ!!」
ローストなのにまるで煮込んだかのような柔らかさ。外はカリっと、中はトロっとジューシー・・・う、美味いぞぉぉおー!!
はは、エイスもボーズもあまりの美味さに、無我夢中でかぶりついてるわ。
でも分かる。俺もさっきから手と口が止まらねぇんだもん。
「・・・無くなっちゃった」
食べきるまで手が止まらなかった。チクショウ。今頃になってもっと味わえば良かったって後悔が・・・でも、手が止まらなかったなぁ・・・
また今度作ってもらおう。
「さて、お次はシチューか・・・こんなん絶対美味いだろっ」
匂いからしてわかる。これは絶対美味いと。
俺はおもむろにスプーンを手に取り、シチューを掬う。
「・・・それでは、いざ」
そして、口へと運び。
「はうぅわっ!?」
「「ッ!!!?」」
・・・
・・・
・・・
「・・・これが、料理か」
このシチューに、料理の粋を見た。
あまりの美味さに思わず頬から涙が伝い、エイスとボーズは白目を剥き気絶した。
口に入れた途端、蕩ける肉。そしてそこから肉に染み込んだ野菜や香辛料が、口の中へと広がっていく・・・
これが料理か・・・俺らが今まで美味い美味いと食べてた焼いただけの肉って一体・・・
いや、今はそんなことを思うのは辞めておこう。
今は・・・今は、この料理に集中しよう。この幸せな時間を楽しもう。
エイスもボーズも俺と同じ気持ちなのか、ちびちびと味わうようにゆっくりとシチューを舐めている。
「・・・ふう、ごちそうさま」
幸せだった。ただただ幸せな時間だった。
やっぱ人里に降りて正解だったな。あの森より、美味い肉なんてあるのか半信半疑だった部分もあったけど・・・調理って偉大だよなぁ。
「・・・クルァ」
「・・・ボォ」
あはは、幸せそうな顔しちゃって。いや、多分俺もあんな顔してるなきっと。
あのシチューには、それだけの破壊力があったし。
「・・・女将!私にもあの料理をっ!」
「俺にも!俺にも頼むっ!!」
「わ、私もよっ!」
「キングサヴァナラビットの肉を使ってるから、お値段張るけど・・・いいのかい?」
「「「私は一向にかまわんっ!!」」」
「わ、わかったよ。ちょっと待ってな」
そんな俺らの様子を見ていたお客さんたちが、女将へと殺到する。
あれは匂いだけでも、かなり食欲をそそられるからなぁ・・・仕方ないね。
でも、あのローストとシチューっていくらするんだろ?
俺は肉の提供者だから、タダだったけど・・・幻の肉って言われるくらいだし、銀貨までいっちゃうのか?
「「「う、うめぇっ!!!?」」」
シチューを頼んだお客さんが次々にシチューを口へ運び、そして魂の叫びをこだまさせる。
わかる。その気持ちわかるわ。自然と叫んじゃうよね。
・・・とりあえず、明日からキングサヴァナラビット狩るか。
そして、またシチュー作ってもらおう。俺はシチューの美味さを思い出しながら、静かに決意した。
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