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第29話BBQ
「本当に良いんですか?私たちも御馳走になっちゃって?」
「いいよいいよ。めっちゃいっぱい獲れたし」
「・・・ですが」
「焼肉はみんなと食べるから美味しいじゃん?」
「・・・そうですね。シルスナさんのお言葉に甘えさせて頂きます。聞きましたかみなさん、今日はシルスナさんのご厚意で焼肉パーティーですよっ!」
「「「「ありがとうございまーーすっ!!!」」」」
「お、おう・・・」
「うぉぉ!サヴァナカウなんて何年振りだっ!」
「あたしもよ!今日は運が良いわぁ」
「今日は食うぞぉー!」
牛たちとのプライドを賭けた戦いの末、大量の牛肉を持て余した俺は街へ戻って焼肉パーティーを開くことにした。
最初は受付嬢さんと宿の連中だけでこじんまりとやるつもりだったんだけど、焼肉の匂いに釣られたのかどんどんと人が集まって来て・・・最早お祭り状態だ。
まぁ、肉は数トン規模であるし、みんな美味しそうに焼肉を食べてるのを見るのは嫌いじゃない。
たまにはこんな日もあっても良いかな。
「うめぇ・・・うめぇよぅ・・・」
「おまっ!泣くなよ・・・あれっ、肉がしょっぱいな・・・グスッ」
「・・・生きててよかったぁ」
「・・・喜びすぎじゃね?」
肉食べながら泣いてる・・・主に冒険者たちが・・・
「彼らが泣くのも仕方ないですよ」
「受付嬢さんか。仕方ないってどういうこと?」
「彼らはその・・・冒険者として実力が伴ってないと言いますか・・・」
「低ランクってこと?」
受付嬢さんがとても言いづらそうにしてるから、俺がザックリと言ってあげる。
優しそうな子だし、立場もあるから言いづらいよね。俺もそうだったから分かる。
「・・・はい。彼らは、日銭を稼ぐことで精いっぱいでして・・・恐らくお腹いっぱい何かを食べるのは、久しぶりなんじゃないですかね。オマケにサヴァナカウは高級肉ですし、その感動もあると思います」
「・・・なるほどな」
そっか、そりゃそうだよね。
冒険者は自己責任。稼ぐやつもいれば、すぐ死ぬやつもいる。全員が全員、成功するわけじゃないもんな。
「あまり驚かれないのですね」
「ん?そりゃ、そんなの覚悟の上で冒険者になったしなぁ」
「シルスナちゃんお待たせっ!サヴァナカウ盛り合わせだよっ!」
「おっ、待ってましたっ!女将さんありがとうっ!」
「良いよ良いよ!シルスナちゃんには、稼がせてもらってるからね。お代わりがいるなら、いつでも言ってきなっ!」
俺と受付嬢さんの会話をぶった切るように、女将さんが器にモリモリ盛られた牛肉を持ってくる。
冒険者なんて勝手に泣いてればいいよ。それよりも肉だ肉!
「・・・うわぁ、高級部位だぁ」
受付嬢さんの視線が、盛られた皿に釘付けだ。
それもそうだろう。女将さんに一番美味い部位を頼んだからね。
なんでもサヴァナカウは、内臓が一番美味しいらしい。
でも内臓は鮮度が良くないと食べれないらしく、その関係で市場にはほぼほぼ出回らないらしい。
サヴァナカウの内臓は、ある意味キングサヴァナラビット並みに貴重なんだとか。
「・・・コレ本当に美味しいのか?」
肝臓と心臓が美味しいのは知ってる。森でもよく食べてたし。
事前に部位の説明はしてもらったけどさ。胃袋とか腸って食べれるの・・・か?
「シルスナさん。聞いた噂だと未知の食感と味らしいですよ」
「マジか」
今の言葉で、めちゃくちゃ食欲が刺激されたわ。・・・受付嬢さん、やりおる。
そうだよな。まずは食べてみないと分からないよな。
「とりあえず焼くか」
「あっ、私がやりますよ」
「そう?ありがとな」
「いえいえ、シルスナさんはこのパーティーの主役ですから」
慣れた手付きで肉を網へと並べる受付嬢さん。
この人、ほんと気配り上手だよなぁ。俺も・・・いや、俺はもう無理だわ。自由を知ってしまったし、今更気配りとかできないわ。
「お待たせしました。どうぞ」
「ありがと」
どうやら焼き上がったみたいだ。
俺は受付嬢さんにお礼を言い、皿を受け取る。
「まずはこの蜂の巣みたいなやつから行くか」
「は、はいっ!これが幻の・・・」
「「それじゃいただきまーす」」
「「っっっ!!?」」
俺と受付嬢さんは蜂の巣みたいな肉を口に運び、そして目を見開く。
・・・何だこれ、うめぇ。
肉を噛んでるとは思えない弾力。そして噛めば噛むほど、濃厚な甘い脂が染み出てくる・・・何だこれ、何だこれっ!
「「・・・モグモグ、ゴクン」」
お互い無言で肉の味を楽しみ、そして飲み込む。
「・・・これは美味いな」
「・・・幸せですぅ」
たった一枚食べただけなのに、充足感がヤバい。
蜂の巣みたいなのがこんなに美味いってことは、この腸をブツ切りにしたようなやつの味も気になってくるな。
「次はこれいくか」
「・・・はいっ!」
「「いただきますっ!」」
「「はぅわっ!!?」」
焼けた腸を口へ運び・・・そしてあまりの美味さに身を震わせ悶える。
さっきの蜂の巣のような弾力があるかと思いきや、こっちの肉は蕩けるような食感だった。
蕩けるのに味はめちゃくちゃジューシー。口の中で溶けた瞬間に、凝縮された旨味が口の中いっぱいに広がってくる。
「「・・・ハァ」」
一瞬で口の中から無くなったけど、旨味の余韻がヤバい・・・
なるほどな。こりゃ美味いわ。高級品だわ。
「・・・サヴァナカウ、定期的に狩るか」
「・・・生きてて良かったぁ」
俺は静かに決意する。デカ兎のシチューと牛の内臓は・・・俺のフルコッ、ごほん。お気に入り決定だ。
・・・
・・
・
「・・・ふぅ、食った食った」
「もう私も食べれないですぅ~」
俺はパンパンに膨れたお腹をさする。受付嬢さんも同じようで、細身のお腹がぽっこり膨れている。
「いやー、まさか胃袋が三つもあるとはなぁ・・・」
「魔物って不思議ですねぇ」
何とあの牛、胃袋が三つも存在していたのである。しかも、どの胃袋も食感や味が全然違うと来たもんだ・・・牛、侮りがたし。
「・・・もう食えねぇ」
「・・・幸せだった。夢のような時間だった」
「生きててよがっだよぉぉ」
「相変わらず大げさだな、あいつら」
「・・・あはは」
泣きながら肉を食べてた冒険者たちは、食べ終えた後も泣いてた・・・涙腺もろ過ぎない?
「みんな粗方食べ終わったみたいだし、お開きだな」
「そうですね。・・・みなさん!聞きましたね?各自、片付けゴミ拾いをしてから帰ってくださいねー!」
「「「「はぁーいっ!!!」」」」
「後、お肉を提供してくださったシルスナさんにお礼を言うようにっ!」
「「「「ありがとうございましたぁーっ!!!」」」」
・・・ここは、幼稚園か何かかな?
「まぁ・・・なんだ?余った肉は持って帰っていいから」
「「「「うぉぉぉぉっ!!ありがとうございまーーすっ!!!」」」」
俺の言葉を皮切りに、我先にと焼けた肉をパックに詰め込む冒険者たち。
「そんなに必死になることか?ねぇ、受付嬢さ・・・」
「はっ!?こ、これは・・・あの、その・・・」
同意を受付嬢さんに求めようとした所、受付嬢さんもパックに牛肉を詰め込んでいた・・・受付嬢さん、お前もか。
「あの、その・・・サヴァナカウは高級品ですから・・・つい」
「・・・美味いもんな、仕方ないね」
「そう!そうなんです!仕方ないんです・・・クスン」
・・・今度から納品の時に、肉も少し卸してやるかな。
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